研究課題/領域番号 |
22KK0014
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分5:法学およびその関連分野
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
前田 美千代 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (70388065)
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研究分担者 |
工藤 敏隆 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (50595478)
安永 祐司 広島大学, 人間社会科学研究科(法), 准教授 (10807944)
八田 卓也 神戸大学, 法学研究科, 教授 (40272413)
マシャド ダニエル 学習院大学, 法学部, 准教授 (50926087)
樋口 範雄 武蔵野大学, 法学部, 教授 (30009857)
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研究期間 (年度) |
2022-10-07 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
20,020千円 (直接経費: 15,400千円、間接経費: 4,620千円)
2027年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2026年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2025年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 消費者集団訴訟 / 裁判手続のIT化 / 高齢者法 / 障害者法 / 家族法 / 消費者裁判手続特例法 / 脆弱な消費者 / 同性婚法 / 児童青少年法 / ブラジル / 司法アクセス / 集団訴訟・ADR / 社会的弱者 / デュアル・エンフォースメント |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、社会的包摂と持続的発展の効果的な実現のための法的手段の比較法的考察を目的とする。ブラジルを対象とする理由は、①法学・司法主導による人権尊重社会の推進、②社会的弱者保護のための個別法典の存在である。①に関し、ラテンアメリカ地域では、米州人権条約、子どもの権利条約等、条約に基づく社会的弱者の救済が国内法で具体的に実施されている。②に関し、ブラジルでは、1990年消費者保護法典、1990年児童・青少年法、2003年高齢者法、2015年障害者包摂法が制定されている。これにより、差別なき社会、誰も取り残されない社会実現のために、社会的弱者の司法手続への参加機会の実質的保障に向けて示唆を得る。
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研究実績の概要 |
2023年度の研究実績として、2023年11月9日に慶應義塾大学三田キャンパスにて、ブラジルより5名の専門家を招聘し「日本ブラジル国際シンポジウム2023」を開催した。第一の消費者法パネルでは、バイーア連邦大学よりパウラ・サルノ・ブラガ教授(民事訴訟法)を招聘し、「消費者の権利の集団的救済」というタイトルで講演が行われた。第二の手続法パネルでは、リオデジャネイロ州立大学よりアントニオ・カブラウ教授(民事訴訟法)を招聘し、「手続法のIT化:人工知能、オンライン裁判所、ODR」というタイトルで講演が行われた。第三の高齢者・障害者法パネルでは、リオデジャネイロ州検察庁よりホブソン・ゴヂーニョ検事を招聘し、「障害者・高齢者保護のための実体法と手続法」というタイトルで講演が行われた。第四の家族法パネルでは、リオデジャネイロ州高等裁判所よりアレシャンドリ・カマラ判事を招聘し、「家事事件に関する司法手続の新基軸」というタイトルで講演が行われた。 また、今回、同シンポジウムは、平成国際大学および広島大学にてセッションを行った。平成国際大学では、ホブソン・ゴヂーニョ検事が「高齢者・障害者の個別的・集団的な裁判上・裁判外の保護における検察庁の役割」というタイトルで講演し、広島大学では、アレシャンドリ・カマラ判事が「ブラジル民事訴訟における最新トピックス」というタイトルで講演した。 三田での各パネルおよび平成国際大・広島大でのセッションにおいて、本研究課題の研究代表者を含め研究分担者の全6名が討論者や通訳として登壇し、それぞれのテーマに関して活発な議論が行われた。フロアからも多くの質問が出され盛況のうちに終了した。これらの講演録および質疑応答については、法学研究(慶應義塾大学)97巻8号、9号に掲載される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「日本ブラジル国際シンポジウム2023」を開催し、幅広い法分野を取り扱うことができたこと、想定以上に多数の参加者を得たことに大きな手応えを感じている。今回のシンポジウムでは、障害者法、高齢者法および家族法という新しい法分野に挑戦し、これらに関連する新規パネルを設定した。ブラジル法が消費者集団訴訟や民事訴訟法の分野で先進的な制度を有し、諸外国の法制度に影響を与えてきたことは先行業績により知られるところであったが、障害者法・高齢者法でもそれぞれの法益に関する特別法が制定され、実体法的には権利アプローチをとった制度となっていることが明らかとなった。それにとどまらず、消費者の集団的利益と同様に、障害者・高齢者について裁判上の救済に係る検察庁の各種活動があり、手続法的にもさまざまな場面における救済制度が完備されていることが明らかとなった。日本の現行の成年後見制度に対して重要な問いかけを行う内容であったとともに、法改正に向けて貴重な議論を提供するものであった。 全てのパネルやセッションにおいて、研究分担者による討論とフロアからの質問を通じ有益な意見交換を行うことができた。三田で行われたイベントに関し、第一パネルでは、集団訴訟の訴訟費用および訴えの濫用防止措置、集団訴訟と個別提訴の関係、流動的賠償、司法上の和解および第三者、集団的合意と個別被害者に関する議論が行われた。第二パネルでは、人工知能(AI)の活用、伝統的な審理原則との関係、裁判手続IT化を加速させた理由、ロボット裁判官に関する議論が行われた。第三パネルでは、権利アプローチ、実体的権利と手続的権利の区分、無能力者の範囲の限定、障害者・高齢者との「共生」に関する議論が行われた。第四パネルでは、義務的調停と調停前置主義、民事拘禁制度の評価、専門的カウンセリング、裁判官の事件管理権と手続きの(再)構築に関する議論が行われた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、消費者、民事訴訟手続、障害者・高齢者および家族法の4テーマごとに議論を深め、各テーマごとの結論と、研究課題全体の結論を追求していきたいと考えている。 消費者に関しては、手続法的側面のみならず関連する実体法的側面に配慮して進めていく予定である。具体的には、消費者の集団的利益の救済を論じる前提として、消費者集団の概念に関する相違が見られるため、この点を明らかにする。消費者保護においては、消費者の情報・交渉力における脆弱性を出発点として実体法上の保護が構築されているところ、日本法においては画一的な消費者概念を採用しており、小規模事業者が除外される形になっている。他方で、フリマのような個人間取引における事業者性・消費者性も問題となる。これらの点に関するブラジル法の状況を明らかにする。その上で、手続法的側面について、拡散的利益と同種個別的利益の両者が問題となりやすい広告事業者について検討を進める予定である。 民事訴訟手続に関しては、引き続き消費者集団訴訟制度の改善点を深めることに加え、ダブルトラック、トリプルトラックに関する検討を重ね、日本における消費者法典構想までつなげていきたいと考えている。 障害者・高齢者法に関しては、喫緊の課題である日本の成年後見法改正に向けて個別論点への示唆を与えるとともに、実体法と手続法を含む包括的な観点から分析を続けていきたい。合わせて、障害者・高齢者との共生という視点に立って、当事者を取り込んだ学術イベントの開催を模索しつつ、国民への研究成果の還元へとつなげていきたい。 家族法に関しては、日本法で議論の高まっている同性婚に関する実体法・手続法上の分析に加え、今回のシンポジウムを通じて提供された家族法の個別テーマに関して一つずつ議論を深めていく予定である。
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