研究課題/領域番号 |
22KK0074
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分34:無機・錯体化学、分析化学およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
酒井 健 九州大学, 理学研究院, 教授 (30235105)
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研究分担者 |
小澤 弘宜 九州大学, 理学研究院, 准教授 (30572804)
山内 幸正 九州大学, 理学研究院, 助教 (50631769)
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研究期間 (年度) |
2022-10-07 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
20,150千円 (直接経費: 15,500千円、間接経費: 4,650千円)
2026年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 太陽光水分解 / 機能性金属錯体 / 二酸化チタン / 人工光合成 / 金属錯体 / 超高速時間分解測定 |
研究開始時の研究の概要 |
申請代表者(酒井)並びに分担者二名(小澤、山内)は、過去約20年間互いに協力して分子性光触媒反応の基礎と応用研究を精力的に展開してきたが、創成に成功した各種の光分子デバイスにおける光誘起電子移動並びに後続する分子性触媒過程の動作原理に関する情報収集に苦労を強いられてきた。本研究では、申請代表者と同じく人工光合成の研究を長年に渡って展開し、かつ超高速時間分解測定で優れた経験と技能を有する伊メッシーナ大学のSebastiano Campagna教授グループとの共同研究を強力に推進することによって、光エネルギー変換分子システムにおける各種の反応素過程や触媒反応機構を解き明かす。
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研究実績の概要 |
今年度は、水からの光電気化学的な酸素生成触媒反応を駆動する分子性酸素生成TiO2フォトアノードの開発に取り組んだ。ピリジルアンカーを有する光増感剤(Ru-qpy)と酸素生成触媒(Ru(bda)-py)を様々な比率で化学吸着させたメソポーラスTiO2電極を作製し、酢酸緩衝溶液中(pH 5.0)において疑似太陽光(λ > 410 nm)を断続照射しながらLSV測定を行ったところ、光化学的酸素生成触媒反応の進行に由来するアノード光電流が観測され、その値はRu-qpyとRu(bda)-pyの吸着比率が13:3の時に最大(約0.1 mA/cm2)となった。0.05 V vs. SCEの印加電圧下において疑似太陽光を連続照射しながら定電位電解を行ったところ、3時間に渡って酸素が生成した。ファラデー効率、および外部量子収率は、それぞれ94 ± 6%、0.7%と見積もられたことから、本フォトアノード上において水からの光酸素生成触媒反応が非常に効率良く進行していることが確認された。 次に、本分子性酸素生成TiO2フォトアノードと白金電極からなる分子性光電気化学セルにおいて検討を行ったところ、0 V vs. Pt cathodeの印加電圧下においてアノード光電流が観測されたことから、本分子性光電気化学セルはノンバイアスの条件下においても太陽光水分解を駆動できることが強く示唆された。0.4 V vs. Pt cathodeの印加電圧下においては、3時間に渡って水素と酸素が2:1のモル比(ファラデー効率91%、93%)で生成し、この時の太陽光-水素変換効率(STH)は、0.07%と見積もられた。この値は、これまでに報告された分子性光電気化学セルの中で2番目に高いことから、本分子性光電気化学セルは非常に効率良く太陽光水分解を駆動できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、太陽光による水を電子源とした二酸化炭素還元を目指した分子性光電気化学セルの開発を目的としているが、そのためには水からの酸素生成触媒反応を行う酸素生成フォトアノード、および二酸化炭素還元触媒反応を行う分子性二酸化炭素還元フォトカソードをそれぞれ開発することが必要である。上述した通り、昨年度はピリジルアンカーを有する光増感剤と酸素生成触媒を共吸着させたTiO2電極の作製と機能評価に取り組むことによって、分子性酸素生成TiO2フォトアノードを開発することに成功した。本分子性酸素生成TiO2フォトアノードは、世界で2番目に高い効率で水からの光酸素生成触媒反応を駆動できることから、本研究課題の達成に向けて大きく進展したと考えられる。 一方、昨年度は分子性二酸化炭素還元フォトカソードの開発に向けたピリジルアンカーを有する新規フォトカソード用光増感剤(Ru(ppy)-py))の合成にも取り組んだ。フォトカソード用の光増感剤としては、TiO2の伝導帯中の電子によって効率良く還元的消光が進行すること、およびこれによって生じる一電子還元体がコバルトポルフィリン二酸化炭素還元触媒(CoP-py)による触媒反応に対して十分大きな還元力を持つこと、の2点を満たす必要があることを踏まえて分子設計を行った。合成したRu(ppy)-pyの酸化還元特性を調査したところ、期待通り上記の2点を満たすことが確認されたことから、Ru(ppy)-pyはフォトカソード用の光増感剤として利用可能であることが明らかとなった。今後は、Ru(ppy)-py光増感剤とCoP-py二酸化炭素還元触媒を共吸着したTiO2電極を作製し、光触媒機能の評価を進めていきたいと考えている。 以上の通り、本研究課題の進捗状況は順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度開発に成功した分子性酸素生成TiO2フォトアノードは世界で2番目に高い太陽光-水素変換効率(STH)を示すものの、その触媒活性は時間の経過とともに徐々に低下していく事も明らかとなっている。この主な理由は、触媒反応の過程で多電子酸化体となった酸素生成触媒がTiO2表面から脱離してしまうためであることが判明している。そこで今年度は、多電子酸化体となってもTiO2表面に強固に化学吸着することができる新規酸素生成触媒の開発に取り組む計画である。具体的には、分子内に2つのピリジルアンカーを有し、かつ極めて水溶性が低い新規コバルトキュバン錯体の合成を行い、これを酸素生成触媒として用いる計画である。コバルトキュバン錯体は安定かつ比較的小さな過電圧で酸素生成触媒反応を駆動できることが知られているが、電子供与性置換基の導入などによって過電圧の低下にも取り組む計画である。 一方、分子性二酸化炭素還元フォトカソードの開発に向けて昨年度合成を行った新規フォトカソード用光増感剤(Ru(ppy)-py))は、二酸化炭素還元フォトカソードに用いる光増感剤として適した酸化還元特性を示すものの、アノード用の光増感剤であるRu-qpyと比べて励起状態の寿命が極端に短いことも明らかとなっている。そこで、Ru(ppy)-pyを化学吸着させたTiO2電極を作製し、TiO2伝導帯下端の電位を印加した状態において可視光照射を行い、Ru(ppy)-pyの還元的消光が効率良く進行するかどうかを調査する計画である。還元的消光が効率良く進行する場合には、Ru(ppy)-py光増感剤とCoP-py二酸化炭素還元触媒を共吸着したTiO2電極を作製し、光触媒機能の評価を進めていきたいと考えている。反対に、Ru(ppy)-pyの還元的消光が効率良く進行しない場合には、励起状態の寿命が長い新たな光増感剤の合成に着手する計画である。
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