研究課題/領域番号 |
22KK0098
|
研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分43:分子レベルから細胞レベルの生物学およびその関連分野
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菅瀬 謙治 京都大学, 農学研究科, 教授 (00300822)
|
研究分担者 |
森本 大智 京都大学, 工学研究科, 助教 (40746616)
Walinda Erik 京都大学, 医学研究科, 助教 (80782391)
|
研究期間 (年度) |
2022-10-07 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
20,280千円 (直接経費: 15,600千円、間接経費: 4,680千円)
2025年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2024年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
|
キーワード | 電場 / NMR / タンパク質 / 電気泳動 / 凝集 / 分子動力学計算 |
研究開始時の研究の概要 |
生物を専門とする申請者は、現在 物理と装置開発が専門のScheler(ドイツ)と電場中のタンパク質を解析するという国際共同研究を行っている。この背景には、申請者は神経細胞に発生する電場がタンパク質に及ぼす影響に興味を持っており、一方、Schelerは電場を印加しながら測定ができる電場NMRを所持している。しかし、同装置はタンパク質の解析には分解能が十分でない。そこで本研究では、Schelerと共同してタンパク質も解析できる高分解能電場NMR装置を開発し、さらにSchelerの電場NMRを用いた新規解析法や電場中の分子動力学計算法を開発し、電場中のタンパク質の挙動を詳細に研究する。
|
研究実績の概要 |
生物を専門とする申請者は、物理と装置開発が専門のUlrich Scheler博士(ドイツ)と試料に電場を発生させながらNMR測定ができる電場NMRの国際共同研究を行っている。この背景には、申請者は神経細胞に発生する電場がタンパク質に及ぼす影響に興味を持っており、一方、Schelerは電場を印加しながら測定ができる電場NMRを所持している。しかし、同装置はタンパク質の解析には分解能が十分でない。そこで本研究では、Schelerと共同してタンパク質も解析できる高分解能電場NMR装置を開発し、さらにSchelerの電場NMRを用いた新規解析法や電場中の分子動力学計算法を開発し、電場中のタンパク質の挙動を詳細に研究する。 昨年度は、Schelerの電場NMRを用いてαシヌクレインとATPとの弱い非特異的な相互作用を解析した。ATPは中性条件で-4の電荷を持つため、αシヌクレインにATPが結合するとより負に荷電するため電気泳動度が変わるであろうというのがこの実験のアイデアである。修士課程2年生の学生が2ヶ月間Schelerの研究室に滞在し、様々な濃度のATPとαシヌクレインで電気泳動度を計測したが、結論から言うと電場NMRの安定性が悪く再現性良くデータを取得できなかった。この実験を再度行うか否かは現在検討中である。一方、日本において高分解能電場NMR装置の開発を精力的に進め、ほぼ完成のところまでたどり着いた。さらに電場存在下の分子動力学計算eMDを実施し、電場が存在すると、タンパク質、水和水、バルク水で電場に対する配向の仕方が異なること、タンパク質の二次構造の端がほどけることなどを明らかにした。この成果はJ Phys Chem Bで発表し、カバーアートにも採択された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは2021年にハイドロトロープ(凝集抑制剤)としてのATPがタンパク質(αシヌクレイン、ユビキチン、p62)と非常に弱く非特異的に相互作用することを明らかにしている。しかし、どれくらいの強さで何個のATPがタンパク質と相互作用するのかが不明であった。先行実験で解析したタンパク質の中で、αシヌクレインだけがアミロイド線維化する(パーキンソン病の発症と関連する)ため、ATPがハイドロトロープとしてどのように凝集を抑制するのかをより詳細に解析するために、本研究ではとくにαシヌクレインを対象として、電場NMRを用いてATPとの相互作用を解析した。ATPは中性条件で-4の電荷を持つため、αシヌクレインにATPが結合するとより負に荷電するため電気泳動度が変わるであろう、というのが本研究におけるアイデアである。修士課程2年生の学生が日本で大量にαシヌクレインを準備し、9月と10月の2ヶ月間Schelerの研究室に滞在して電場NMRを用いた電気泳動実験を行った。具体的には、0.14 mMと0.28 mMのαシヌクレインに0~10 mMのATPを添加した試料を準備し、電場NMRを用いて電気泳動度の測定ひいてはαシヌクレインの見かけの電荷を算出した。結果は、前年ながら電場NMRの調子が悪く、濃度に依存した系統的な変化が得られなかった。再現性もあまりなかった。一方、日本において高分解能電場NMR装置の開発を精力的に進め、ほぼ完成のところまでたどり着いた。電場存在下でαシヌクレインの高分解能NMRスペクトルを得ることができた。さらに電場存在下の分子動力学計算eMDを実施し、電場が存在すると、タンパク質、水和水、バルク水で電場に対する配向の仕方が異なること、タンパク質の二次構造の端がほどけることなどを明らかにした。この成果はJ Phys Chem Bで発表し、カバーアートにも採択された。
|
今後の研究の推進方策 |
ドイツでの電場NMRは、装置の問題があるため装置が復調しない限り再実験ができないため、現在はSchelerと今後の予定を検討している。一方、日本で開発している電場NMR装置がかなり完成に近いところまで来ているため、本年度はまずはこの装置の完成および完成した装置を用いた測定に集中する。現状の課題は電場をオフにした際に、オシロスコープで見る限り、スパッと電場がオフにならないことである。これはわずかに溶液中のイオン分布の偏りができて、あたかも蓄電している状態になっているためと考えられる。そこで電場をオフにした瞬間に電極側をアースし蓄電した電荷を逃がすスイッチを導入する。すでにこのスイッチは完成しており、このスイッチのオンオフのタイミングの最適化を済ませば電場NMR装置全体が完成となる予定である。装置が完成すれば、電場によるαシヌクレインの凝集状態の変化を原子レベルでリアルタイムにモニターする。またαシヌクレインはN末端に正電荷、C末端に負電荷が集中しているため、電場に対するαシヌクレインの配向も解析する予定である。なお、αシヌクレインは過去に神経活動と同等の電場中で凝集することが報告されている。 一方、電場中の分子動力学計算eMDについては、球状タンパク質であるユビキチンを用いて方法論を確立したため、次には電場NMR測定と合わせてαシヌクレインの計算を行う。ユビキチンの場合は、立体構造があるため分子全体の双極子モーメントを定義できたが、αシヌクレインは天然変性タンパク質であるため、分子全体の双極子モーメントを決定することはできない。そのため、領域を分けて局所的な双極子モーメントを計算するような工夫を計画している。
|