研究課題/領域番号 |
22KK0110
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分48:生体の構造と機能およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田守 洋一郎 京都大学, 医学研究科, 准教授 (10717325)
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研究分担者 |
榎本 篤 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (20432255)
石原 すみれ 北海道大学, 先端生命科学研究院, 助教 (70905752)
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研究期間 (年度) |
2022-10-07 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
20,020千円 (直接経費: 15,400千円、間接経費: 4,620千円)
2026年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2025年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2024年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2023年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | がん細胞進化 / 多倍体細胞 / 腫瘍浸潤 / ショウジョウバエ / 倍数性変化 / 異数体 / 多倍体 / 染色体異常 |
研究開始時の研究の概要 |
悪性腫瘍組織に多倍体化細胞が観察されることは、以前から数多く報告されている。この多倍体化巨細胞は強いストレス耐性を持つことから、腫瘍悪性化のプロセスに重要な役割を持っていると考えられているが詳細は分かっていない。本研究では、複数の実験モデル(ショウジョウバエ遺伝学、哺乳類培養細胞、ヒト病理検体)による多角的な解析、そして国際共同研究拠点での新しい解析技術(連続腫瘍移植モデル、タイムラプス一細胞ゲノミクス)を組み合わせることにより、多倍体化巨細胞の分裂がどのようにして始まるのか、その分裂により生じる様々な核型を持つ細胞群からどのような細胞が悪性形質の発現に至るのかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究は、腫瘍組織内の多倍体化巨細胞がどのようにして分裂を始め、その結果生まれた多様な細胞群の中でどのような細胞が生き残って悪性形質を発現するのかを明らかにし、多倍体化巨細胞を起点として始まるがん細胞進化の新しい分子基盤の構築を目的としている。 これまでの我々の研究から、ショウジョウバエの翅原基上皮組織に誘導したがん原性変異細胞(極性形成に関わるlglもしくはscribbleの変異とがん原遺伝子Rasの活性化の二重変異)からなる腫瘍が、基底膜を破って間質側に侵入すると、非常に高い確率で巨核を持った細胞が数多く出現することを発見している。これらの巨核細胞では、DNA合成期(S期)の細胞は観察される一方で、分裂期(M期)の細胞がほとんどないこと、3個以上の中心体を持つ細胞が認められることなどから、これらは核内倍加周期によって多倍体化していると考えていた。これら巨核細胞の正確な倍数性を確かめるために、FACSによるDNA量解析や、共焦点顕微鏡によるイメージングベースの倍数性解析によって徹底的な検証を行ったところ、これらの大部分は2倍体を維持しており、通常の倍数性から大きく逸脱はしておらず、ごく少数の細胞だけが多倍体化している可能性が見えてきた。この結果は、これまでの我々の仮説とは少し異なるものであるが、モデルとしている浸潤がんクローンの本当の実態が見え始めてきたことは大きな前進であり、しかも浸潤性のがん組織内に存在する少数の多倍体化細胞が、がんの進展や再発に重要な役割を持つという考えには驚くほど一致するものである。 令和4年度は、これら我々の腫瘍実験モデルにおける基本的な観察結果について、生化学会のシンポジウムを含め複数の学会で紹介した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度の後期は、本研究課題で用いる複数の実験モデル(ショウジョウバエ幼虫の翅原基上皮組織、唾液腺成虫原基、MDCK細胞など)を用いた基礎的データの再確認、さらに様々な実験手法の有効性などを確認した。特に、FLP-FRT、Gal4-UAS、QF-QUASを組み合わせた遺伝学的モザイクテクニックにより、ショウジョウバエ上皮組織に誘導したがん細胞クローンの中で、管腔側へ逸脱して過増殖を生じる良性腫瘍クローンと、基底膜側から間質側へ侵入した浸潤性クローンを別のマーカーで可視化することができる新しいモザイクシステムを開発した。このモザイクシステムを用いた腫瘍モデルの有効性は、共焦点顕微鏡によるイメージングによって確認しただけでなく、セルソーターを用いて管腔側の良性クローンと基底膜外の浸潤性クローンを別々に分取する技術基盤の確認も行なうことができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在まで順調に進んでいるため、令和5年度については申請書の計画通り、様々な実験モデルを用いた解析を進める予定である。特に令和5年度は、本国際共同研究の海外拠点(Tulane University)に赴き、ショウジョウバエでの腫瘍組織の長期間に渡るタイムラプスデータを取得するための腫瘍連続移植実験を行う。この腫瘍連続移植実験には、当研究室で開発した翅原基上皮組織の領域特異的な強制発現用ドライバー(K42-Gal4)を用いてがん原性変異のRasV12の発現を誘導する腫瘍モデルと、共同研究先が開発した唾液腺原基の領域特異的なドライバー(MMP1-Gal4)を用いてNotchの強制発現を誘導する腫瘍モデルの両方を用いる。これまでの実験結果から、我々の翅原基上皮組織の腫瘍モデルでは、大部分の浸潤性クローンは2倍体であるが少数の多倍体細胞が含まれており、共同研究先の唾液腺原基の腫瘍モデルでは、倍数性のレベルがかなり異なる多倍体化細胞が含まれるものであることが分かっているため、これら2種類の腫瘍モデルの連続移植実験による長期間経過観察結果の比較から、がん進展における倍数性の変化について新しいことが見えてくるものと期待される。また、培養細胞モデルを用いた多倍体細胞の動態解析、細胞分裂に対するストレスに応答性についての解析を進める予定である。
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