研究課題/領域番号 |
22KK0113
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分49:病理病態学、感染・免疫学およびその関連分野
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岡田 賢 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (80457241)
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研究分担者 |
金兼 弘和 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 寄附講座教授 (00293324)
小原 收 公益財団法人かずさDNA研究所, その他部局等, 副所長 (20370926)
浅野 孝基 広島大学, 病院(医), 助教 (50835501)
坂田 園子 広島大学, 病院(医), 寄附講座助教 (50897907)
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研究期間 (年度) |
2022-10-07 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
20,280千円 (直接経費: 15,600千円、間接経費: 4,680千円)
2024年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
2023年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
2022年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | ロングリードシーケンス / 原発性免疫不全症 / RNAシーケンス / 全ゲノム解析 / 診断率向上 / 次世代シーケンサー / ロングリード |
研究開始時の研究の概要 |
オミックス解析で診断に至らないものの、何らかの遺伝的素因が疑われるPID患者を対象に、ロングリードNGSを駆使したターゲットRNAシーケンス・全ゲノム解析を行い、従来のショードリードNGSで検出困難な有害変異の同定率向上を試みる。PIDは病態の主座が血球系細胞にあり、それらを対象とした遺伝子発現解析が可能である点が本研究の強みとなる。ロングリードNGSを駆使したターゲットRNAシーケンスは世界的にも少なく、本研究における挑戦的な課題となる。ロングリードNGSの導入により、『反復配列の異常や染色体転座に伴う融合遺伝子に基づくPID』のような、従来のPIDの概念を覆す発見も期待できる。
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研究実績の概要 |
原発性免疫不全症(PID)は、宿主免疫の障害により多彩な病原体に対して易感染性を示す疾患で、その多くは単一遺伝子の異常により発症する。過去に400を超える責任遺伝子が同定され、それに基づいて病態解明が行われてきた。その結果、遺伝子診断はPID患者の診断確定のみならず、治療法の選択にも重要な役割を担うようになった。先行研究で申請者らは、ゲノム情報を補完するオミックス解析のパイプラインを海外研究機関と共同で開発し、PID患者の診断率向上を達成した。しかし、オミックス解析を実施しても約半数のPID患者は有害変異の同定に至らない。その一因として、全エクソーム解析、ターゲットRNAシーケンスで利用するショートリードの次世代シーケンサー(NGS)は、ゲノムの構造異常、類似配列(偽遺伝子など)の影響で解析困難な領域に存在する変異、染色体転座に伴う融合遺伝子、反復配列の異常などの検出が原理的に困難な点があげられる。このことは、100~150塩基対という短い配列(リード)を読み取るショートリードNGSは、リード長内に収まらない大きな欠失や繰り返し配列の検出精度が低いことに起因する。 本課題の第一段階として、ロングリードNGSによるRNAシーケンス、全ゲノム解析の対象となる未診断PID患者の募集を行った。ゲノム解析では診断に至らなかったPID患者で、ショートリードNGSによるターゲットRNAシーケンスとプロテオーム解析との統合解析で新規に診断された患者は約8%であった。一連の解析では診断に至らず、ロングリードNGSによる解析の対象となると考えられるPID患者が80例抽出されており、次年度以降に解析を予定している。また、ロングリードNGSを用いた全ゲノム解析を2例に対して実施し、保有している全エクソーム解析のデータとの比較検討を行った。得られたデータは、現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第一段階として、ロングリードNGSによるRNAシーケンス、全ゲノム解析の対象となる未診断PID患者の募集を行った。具体的には、従来のゲノム解析(全エクソーム解析、遺伝子パネル解析)で診断に至らないPID患者に対して、ショートリードNGSによるターゲットRNAシーケンスを実施し、ショートリードNGSで診断困難なPID患者を抽出した。並行して、プロテオーム解析による網羅的タンパク解析も実施した。その結果、一連の解析では診断に至らず、ロングリードNGSによる解析の対象となると考えられるPID患者が80例抽出された。一方、ゲノム解析では診断に至らなかったPID患者で、ショートリードNGSによるターゲットRNAシーケンスとプロテオーム解析との統合解析で新規に診断された患者は約8%であった。この結果は、従来のゲノム解析で診断困難なPID患者に対するターゲットRNAシーケンスとプロテオーム解析との統合解析の有用性を示す成果として論文報告した(Sakura F, et al. PNAS Nexus.,2023)。 並行して、ロングリードNGSを用いた全ゲノム解析を2例に対して実施し、保有している全エクソーム解析のデータとの比較検討を行った。その結果、全エクソーム解析で検出されている遺伝子多型が再現性を持って検出できることを確認した。一方、今回の2症例の検討では責任遺伝子は同定されておらず、症例数を増やして検討する予定である。 一連の研究成果より、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析で、ロングリードNGSによる解析の対象となると考えられるPID患者が80例抽出されている。一方、試験的に実施した2例のロングリードNGSを用いた全ゲノム解析では責任遺伝子の同定に至らず、効率的な研究遂行のためには、解析対象である未診断PID患者の絞り込みが重要と判断した。そこで、対象患者の臨床症状を再度調査し、早期発症、重症例、リンパ球分画の障害が明白な症例に着目して絞り込みを行う。特に早期発症の症例は、遺伝的背景を色濃く持つと考えており、優先的に解析を行う。 患者の絞り込みの後、ロングリードNGSを用いたRNAシーケンスを実施する。RNAシーケンスをロングリードNGSで行う利点の一つは、転写産物のisoform毎の発現量を正確に評価できる点と考えている。これにより、特定のisoform発現の障害を検出し、その原因となる有害変異(deep intron領域やnon-coding領域における変異など)を、全ゲノム解析との統合解析により検出する。スプライス異常のみならず選択的スプライシングの固体差も検出可能になると考えており、それらが表現型に及ぼす影響についても調査する。一方、ロングリードNGSを用いた全ゲノム解析では、ゲノムの構造異常、リピート配列の検出、偽遺伝子を持つ遺伝子の解析などが容易となる。一連の解析により、ショートリードNGSで検出困難な有害変位の同定を試みる。 これまでに同定した遺伝子変異の解析は順調に進んでいる。RELA異常症、STAT1機能獲得型変異、IL17RC異常症、IL6ST異常症など、複数のPID患者を同定しており、変異の機能解析を介した病態解析も並行して行う予定である。
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