研究課題/領域番号 |
22KK0145
|
研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分58:社会医学、看護学およびその関連分野
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 昌志 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (10281073)
|
研究分担者 |
田崎 啓 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (80333326)
大神 信孝 藤田医科大学, 医学部, 教授 (80424919)
原 田 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80868258)
|
研究期間 (年度) |
2022-10-07 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
20,150千円 (直接経費: 15,500千円、間接経費: 4,650千円)
2026年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2025年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2024年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
|
キーワード | クロム / 健康影響 / 聴力 / 皮革工場労働者 / 皮革工場 / 健康影響評価 / 浄化 / フィールドワーク |
研究開始時の研究の概要 |
皮革産業は世界貿易額が10兆円を越える巨大産業である。皮革製品は「クロムなめし」と「その他」に分類されるが、生産コストが低く関税が格安なので、世界の皮革製品の90%以上はクロムなめしで生産される。経済グローバル化に伴い、先進国が環境汚染・健康障害を誘発するクロムなめしの工程を途上国に押しつける構図が新たな地球規模問題をうみ出している。本研究は、皮革製品輸出国のバングラデシュ(途上国)と、主要輸入国である日本(先進国)に焦点をあて、A. 環境汚染の把握→B. 汚染物質の健康影響評価→C. 解決策の提案からなる問題解決型研究を両国が協働で実施し、本問題の解決をめざす。
|
研究実績の概要 |
世界貿易額が10兆円を越え、世界の労働者人口が600万人を超えている皮革産業は、巨大世界産業であると言える。近年、皮革産業において、環境汚染が発生する作業工程を途上国が分担し、汚染の発生しない作業工程を先進国が分担するという不平等な構図ができあがっている。特に、バングラデシュにおいて、皮革工場に由来する深刻な環境汚染と皮革工場労働者の健康障害が報告されている。しかし、健康障害の報告から20年以上が経過しても、本地球規模環境問題は一向に解決されていない。本研究では、皮革製品を世界約70ヶ国に輸出しているバングラデシュを重大な環境汚染が発生している途上国の例とし、バングラデシュの皮革製品の主要輸入国である日本を先進国の例として、A. 環境汚染の把握→B. 汚染物質の健康影響評価→C. 解決策の提案からなる双方向的国際共同研究を推進する。
本年度は、まず、バングラデシュの皮革工場集積地における工場内廃液のクロム汚染に焦点を当て、皮革工場労働者が曝露されるクロムの99.99%以上が三価クロムであることを把握した。次に、皮革工場労働者が、会話音域(1000 Hz・4000 Hz)における難聴を発症していることを発見した。感音性難聴は、8000 Hz・12000 Hzといった高音域から難聴が始まることを考えると、本難聴は感音難聴である可能性は低いと考えられた。そこで、動物介入実験を用いて三価クロムが難聴を誘発するメカニズムを調べた。本動物実験では、三価クロムが鼓膜に損傷を与えることにより、伝音性難聴が誘発されている可能性を示した。六価クロムほど強くはないものの、三価クロムも腐食作用を持っていることを考慮すると、皮革工場労働者は工場廃液が外耳道を経由して鼓膜に達することで、鼓膜障害が発生した結果として伝音難聴が発症した可能性があることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、途上国と先進国の双方向的国際共同研究により、A. 環境汚染の把握→B. 汚染物質の健康影響評価→C. 解決策の提案を推進する研究である。2022年度において、A. 環境汚染の把握に関しては、関連する1編の論文を公表した。B. 汚染物質の健康影響評価に関しては、関連する2編の論文を公表した。解決策の提案に関しては、関連する2編の論文を公表した。以上のように、2022年度には、本研究課題に関連する数編の論文を公表できているので、当初の計画以上に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度以降は、以下に示す国際共同研究を推進する。 A. 環境汚染の把握:バングラデシュにおいて、70%程度の皮革工場が残る旧皮革工場集積地域と皮革工場が移転した新しい皮革工場集積地域において皮革工場内外の環境検体を採取し、化学物質を測定するフィールドワーク研究を推進し、環境汚染の推移と現状を把握する。特に、2023年度以降は、皮革工場集積地域の環境検体における元素の酸化に着目して検討を進める。 B. 汚染物質の健康影響評価:バングラデシュの皮革工場労働者に対するアンケート調査、臨床検査、生化学検査等の無料健康診断を実施する。さらに、バングラデシュの事務労働者に対して、同様の無料健康診断を実施する(対照)。次に、ヒト検体に含まれる化学物質の濃度を測定する。最後に、上記の情報を合わせて、皮革工場に起因する化学物質の健康影響をヒトに対する横断的疫学研究で解明する。特に、2023年度以降は、皮革工場に起因する化学物質に関する健康影響を詳細に探索する。また、ヒトで得られた化学物質の健康影響に関する成果を、必要に応じて動物(マウス)や培養細胞を用いた介入研究で実験的に確認する。 C. 解決策の提案:まず、研究代表者等が発明したオリジナルの浄化材を基盤技術として用い、除去すべき単体の化学物質を含む人工的水溶液に対する浄化材の吸着効果をラングミュア吸着等温式等を用いて化学的に証明する。オリジナルの浄化材を用いた吸着がうまくいかなかった場合には、新しい浄化材の開発に挑戦する。さらに、バングラデシュにおいて採取された皮革工場内外の廃液(環境検体)を用い、本研究において開発された浄化材を用いて、実際に有害化学物質を除去できることを証明する。以上により、皮革工場に起因する環境汚染と健康障害に関する問題の解決に挑戦する。
|