研究課題
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
申請者は、自ら実施する若手研究において高次免疫解析系(抗体力価動態、エピトープ、アビティディ成熟、リンパ球ポピュレーション)を準備し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における宿主応答の多角的評価を推進している。基課題から通底する「病原体への宿主応答を反映した『高次免疫指標』が、感染の成立や症状重篤化を制御する」との仮説が、より広く感染症危機対応の文脈へと普遍化できることを、熱帯アメリカ地域を流行の震源地とする新興・再興感染症(COVID-19・シャーガス病・ジカ熱等)をモデル疾患に、実証する。臨床アウトカムと、多パラメータ免疫指標とを突合し、感染成立や重篤化の規定因数を解明する。
中米・米国南部に特徴的な新興・再興感染症を標的に、疾患コホートの高次免疫フェノタイピングに基づく、リスク層別化研究に取り組んだ。計画について、エルサルバドル、米国の共同研究者との間でオンライン・ディスカッションが行われた。試験サイト選定、計画策定、審査承認取得を推進し、試験データを電子収集・保存するためのレジストリを構築した。COVID-19研究としては、ワクチン被接種者コホートの臨床データ/検体を用いた解析から、接種間隔とSARS-CoV-2特異抗体の力価動態の関連性(抗体フィードバック)が示唆された。抗体獲得の標的エピトープ・パターンから、血清抗体の変異株を含む交差防御性が推定できることを示した。エルサルバドル人497名対象の横断研究にて、特定リスク行動がCOVID-19特異抗体獲得の可能性を高めることが示唆された。シャーガス病重篤化規定因子を解明するために、中米流行国に200名の成人患者コホートを構築した。血液からの抽出DNAを用いた病原体高感度診断のdPCR法を確立した。患者血液を用いた解析から、NT-proBNP高値に関連する因子として、持続的原虫血症の他、複数の宿主応答因子を同定した。また先天性感染の成立など臨床アウトカムに寄与する病原体/宿主要因を明らかにするために、ジカ熱、シャーガス病等の周産期感染症リスクを有する中米妊婦コホートを組織しパイロット研究を実施した。分娩時のシャーガスIgG陽性またはdPCR陽性例が12/198、ジカIgM陽性疑い例が36/198に認められた。ジカIgM検査については、交差反応による偽陽性の懸念があり、RT-PCR法にて真の陽性例を同定する計画である。シャーガス病については、垂直感染が1/12例で確定した(他の症例ではフォローアップが継続している)。垂直感染成立例とそれ以外の妊婦例でサイトカイン・プロファイル・データを取得した。
2: おおむね順調に進展している
中米・米国南部に特徴的な新興・再興感染症の疾患コホートを複数構築し、高次免疫フェノタイピングおよび病原体高感度診断のアッセイ系を確立することができた。共同研究者間の複数回のオンライン・ディスカッションにて、共同研究基盤が強化された。COVID-19に対する免疫防御能を左右する因子として、抗体フィードバック現象とエピトープ・パターンについて、一定の示唆を得ることが出来た。シャーガス病重篤化規定因子を複数同定した。先天性感染の成立可能性を高める要因解析については、予備的データ取得に留まった。
シャーガス病重篤化規定因子となる候補因子を複数同定したが、in vitroにおけるオルガノイドを用いた再構築実験系にて、その機能を検証する。周産期感染症リスク集団の妊婦コホートの解析においては、ジカIgM陽性疑い例から、RT-PCR法を用いて真の陽性例を同定する。シャーガス病、ジカ熱等の垂直感染成立例とそれ以外の妊婦における、生化学的・免疫学的プロファイルの違いの記述を進める。得られた結果についての学術誌における公表を進める。なお最近、局地的流行の著しい新興感染症であるサル痘(Mpox)について、対象国内での(再)流行に備え、疫学調査体制や免疫アッセイ系の構築を進める計画とする。
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