研究概要 |
キイロショウジョウバエのfruitless(fru)遺伝子は性行動制御のマスターコントロール遺伝子との呼び声が高く、実際、この遺伝子一つの人為的操作によって、雌個体に雄の性行動をとらせることが可能である(Demir and Dickson, 2005)。我々(Ito et al., 1996)とBruce Bakerら(Ryner et al., 1996)とにより独立にその原因遺伝子がクローニングされ、fruが性決定カスケードの一員であること、また雌決定因子Transformer(Tra)の直接の標的としてそのスプライシング制御を受けることがわかっている。Fru遺伝子はこの性特異的スプライシングの結果、雌雄で異なる転写物を生み、最終的には雄の神経系でのみ翻訳される。Fruタンパク質のこの雄特異的発現が脳神経系に性的二型をもたらす原因であり、行動の性差の根源でもある。そこで、Fruタンパク質の作用機構が問題の核心となる。本「基盤研究(A)」の主題はこれである。 Fruタンパク質はその構造から転写調節因子と推定される。これまでの研究で、FruがBonus(Bon)と呼ばれる補因子と複合体を形成して染色体の標的部位に結合し、そこに染色体高次構造(クロマチン)の制御に関わる二つのタンパク質、HDAC1とHP1aとを動員することがわかっていた。興味深いことに、HDAC1とHPlaはニューロン構造と性行動をそれぞれ雄化、雌化する相反的作用を有していた。Bonがこの拮抗する二つのクロマチン因子をどのように個々の標的サイトに導くのか、これがまず解くべき課題と考えられる。例えば、Fru-Bon複合体にHDAC1とHP1aとが同時に含有されうるのか、それとも排他的な結合をするのか。この問題を解くべく本「基盤研究(A)」では、培養細胞S2に各因子を発現させるミニジーンをトランスフェクトしてこの複合体を抗Fru抗体により免疫共沈降する実験を実施し、最適条件を決定することに成功した。
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