研究課題/領域番号 |
23520425
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
各国文学・文学論
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
楊 暁文 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (60314142)
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研究期間 (年度) |
2011 – 2015
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研究課題ステータス |
中途終了 (2011年度)
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配分額 *注記 |
4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2015年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2014年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2013年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2012年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2011年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 華文文学 / マレーシア華文文学 / 世界華文文学 / 李天葆研究 / 黄錦樹研究 / 梁靖芬研究 / マレーシア / アジア / 中国 / 国際情報交流 中国 |
研究概要 |
平成25年度は、計画の通りに研究を実施し、以下のような研究の成果を収めることができました。各論の研究対象として、本年度は日本において論じられることのまったくなかった李天葆をとりあげて、彼およびその文学世界について日々考えてきたことを学術論文「李天葆論」にまとめました。具体的には、まず李天葆の全体像から筆をおこし、その作品の大きな特色となっている「香艶」「美艶」「妖艶」などについて分析しました。また、その性描写が具体的な動作よりも男女両性間の性愛心理に重きをおいて描かれていることをも明らかにしました。さらに、李天葆文学における男のイメージ、時代の流れ、社会の背景などについても考察を行ない、その文学戦略をも視野に入れて探求を進めた結果、最終的に、李天葆には「クアラルンプール・コンプレックス」が存在し、それが彼の文学作品に具現されている、とその本質的特徴を説き明かしました。 各論を推し進める一方、研究の深化を目指すべく、総論への挑戦をもしました。学術論文「日本的馬華文学研究」がそれでした。この論文において、1992年5月1日発行の『馬華文学とその周辺』(三冬社)を高く評価しました。太田勇氏がその「序」において「本書は日本で初めての馬華文学を中心にとりあげた書物」と語ったように、『馬華文学とその周辺』が日本におけるマレーシア華文文学研究の先鞭をつけました。小木裕文、荒井茂夫、原不二夫の諸氏もすぐれた実績をあげましたが、馬華文学研究の継続性、一貫性といった視点からみれば、その後の日本における馬華文学研究の代表者として、舛谷鋭氏を挙げました。そして今日、楊暁文が馬華文学研究の空白を埋めるべく努力中である、と具体的に例証しつつ論文を結びました。この総論が世界華文文学研究の分野では権威ある学術誌『華文文学』(2013年第6期)に掲載されたことに、大きな意義と重要性があります。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
華文文学研究は、日本では先行研究の少ない分野である。中でも「馬華文学」(マレーシア華文文学)に関する系統的、総合的な研究はさらに少ないのが現状である。本研究はまさに日本におけるこの研究領域における空白を埋めようと努力をしているものである。 科研費の交付を受けて日々地道な努力を重ねている。具体的には、学術論文を書くことを大学における教育・校務以外のすべての時間をかけている。 日本語による学術論文を日本で公表している。問題は、いかに世界に向けて日本で得た研究成果を発信するか、であった。 そこでマレーシア華文文学を含めた世界華文文学研究の分野で権威ある学術誌である『華文文学』に、中国語による論文を投稿したところ、本研究代表者のこれまでの地道な研究が認められて、2013年第6期の『華文文学』に、「楊暁文専輯」が組まれた。 「楊暁文専輯」を日本語に翻訳すれば、「楊暁文特集」、である。この特集は本研究代表者による学術論文2篇と本研究代表者の研究に対する研究1篇からなっている。そして、本研究代表者による2篇の論文のうち、「日本的馬華文学研究」(日本におけるマレーシア華文文学研究」が入っている。この論文において、本研究代表者は日本における今までのマレーシア華文文学に関する研究の歩み、本質的特徴、問題点と新たな可能性などについて、客観的かつ系統的に述べて、日本でのこの方面の取り組みと研究の実績を世界へとアピールした。 ゆえに、「当初の計画以上に進展している」という自己点検による評価を行ったのである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策を、以下のように、具体的かつ実施可能な方向で立てているのである。 1、よりいっそうの資料収集に努めなければならない。日本でマレーシア華文文学を研究しようとすれば、まず資料の不足という難関にぶつかるであろう。日本の書店・古書店のほとんどがそれらを扱っていないため、その入手はたいへん困難を伴う。これまで、いろいろな困難を乗り越えてある程度の基礎資料を手に入れたのであるが、研究すればするほど、資料の不足を痛感した。それゆえ、今後本研究課題を推進するにあたって、よりいっそう資料の収集に力を入れる。中でも日本でその名前をほとんど知られていない梁靖芬の創作に関する資料を中心にあらゆる方策を試みたい。既にある書店より、日本からマレーシア側に打診し直接輸入する可能性が高い、という連絡を受けている。 2、よりいっそう方法論を考えておかなければならない。日本では(とくに本研究代表者の研究分野では)、実証的研究を重んじる伝統があるようで、中国では(とくに研究代表者の研究分野では)、ややもすれば客観的な検証より主観的な思考や推論によって論を展開させようとする傾向が見られがちである。方法論の問題が今後、本研究課題を推進するうえで重要かつ現実味を帯びた問題である。その打開策をハーバード大学の教授Karen Laura Thornberの著述活動に見出した。Karen Laura Thornberはその著述『Empire of Texes in Motion』において、常識となっている文学事実をTransculturationという新しい研究方法で鮮やかに分析し直し、新視点を内外の研究者に提供した。この成功を踏まえて、その新著『Ecoambiguity』では、みずからのタームを案出し、研究に新生面を切り開いている。こうした方法論的な開拓を、本研究課題の今後の推進方策の一つとしたい。
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