研究課題
基盤研究(C)
小児中枢神経系腫瘍は小児がんの中で白血病に次いで頻度が高い。悪性度の高い髄芽腫や脳幹部に発生する腫瘍は予後不良であり、また星細胞腫などの良性腫瘍でも占拠病変によってはしばしば重篤な後遺症を伴う。そこで本研究では、小児中枢神経系腫瘍に対する有効かつ副作用の少ない新たな治療法を開発する目的で、髄芽腫10例、神経膠腫5例およびPNET20例、計35例の小児中枢神経腫瘍につきSNP array CNAG/AsCNARによる網羅的ゲノムコピー数の解析を行った。一方、IDH1、IDH2がコードするイソクエン酸デヒドロゲナーゼは、脳内におけるNADP^+からNADPHへの還元を触媒する機能を有するが、WHOグレードIIまたはIIIの成人神経膠腫445個のうち、70%でこれら2つの遺伝子のいずれい一方が変異していることが明らかになった。そこで、IDH1およびIDH2のシークエンス解析も合わせて行ない、小児中枢神経腫瘍の発症にこれらの遺伝子が関与しているが否かを検討した。網羅的ゲノムコピー数の解析では、髄芽腫における染色体2pの高度増幅、1pの欠失、神経膠腫における11qのgain、10pの欠失、PNETにおける1pの欠失および19pのgainが比較的高頻度な領域であることが判明した。これらの領域内にはそれぞれの腫膓の発症に関与する標的分子が存在する可能性が示唆された。またIDH1、IDH2のcoding regionのシークエン解析の結果、神経膠腫1検体でIDH2V8G変異が検出された以外、変異は検出されなかつた。IDH2V8G変異が代謝産物に及ばす影響につき、キャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析計(CE-TOFMS)を用いて測定したところ、成人腫瘍で見出された機能獲得作用は観察されなかった。従って、小児中枢神経系腫瘍の発症に、IDH1、IDH2の関与は少ないと考えられた。
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