研究課題/領域番号 |
23650275
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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配分区分 | 基金 |
研究分野 |
医用生体工学・生体材料学
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
古幡 博 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (70056985)
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研究分担者 |
遠藤 怜子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (40433982)
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研究期間 (年度) |
2011 – 2012
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研究課題ステータス |
中途終了 (2011年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2012年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2011年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 超音波NO産生 / 放射線感受性NO / 放射線超音波融合治療 / 固形がん治療 |
研究概要 |
新たな放射線がん治療法として、低酸素濃度領域下でも一酸化窒素(NO)をX線感受性物質として活用すれば、癌細胞の殺細胞効果のある事がin vitro実験で報告されている。しかしNOを生成する化合物は毒性が強く、in vivo実験に於いてはX線感受性NO治療の成功例は報告されていない。新たにNO産生法として、けい皮的調音波照射による低侵襲的技術を我々は所有している。この超音波によるNO産生技術と放射線治療技術の異なる物理エネルギー照射による新たなX-USFusion法の有効性を胆癌ラットin vivo実験で実証することを目的としている。 本年度はX線照射装置を改良し、X線照射領域内に動物を置くと共に、その腫瘍部に超音波をけい皮的照射し得る実験系を設計製造した。特に超音波振動子が形成する音場分布の3次元的状況を正確に測定し、腫瘍内中心部に必要な超音波強度、即ちNOを充分発生し得る超音波強度となる様、音響化学的な基礎検討を行った。 超音波によるNO産生量を定量測定する為に、NO電極法を用い、超音波周波数500KHz、その強度0.5~2W/cm2の可変範囲で既報のNO濃度が充分得られる事を、正常組織及び固形がん腫瘍(9LGLOMA)内部で確認した。 その状態で放射線曝露を併用し、X-US FUSION法の腫瘍縮退効果を10日間の治療介入で比較検討し得る予備的実験を試みた。その結果からX線照射量、超音波強度、及びそれらの曝露時間等について幅広い検討を早期がんから末期がんについて行い得ることを確認し得た。 これら初年度における実験的成果の上に有効性とその治療効果に関するメカニズム追求を展開し得る見通しを得た。低侵襲的超音波照射によって生ずるNOをX線感受性物質として活用する新たな放射線がん治療の道を開く為の、挑戦的道程の基盤を形成することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)本研究では、放射線照射と超音波照射を同時に行わなければ固形がん縮退効果は得られない。同時に2つのエネルギーを動物に照射するに際し、放射線照射装置の密封度が極めて高く超音波発射振動子を同放射線領域内に置きつつ、そのエネルギー源となる超音波振動子駆動電圧ラインを放射線曝露領域外へ引きだす事が難しかった。放射線装置内を一部改造し、また超音波駆動用電源ラインを細小化する事によって実現したが、それには2か月を要した。2)超音波照射によるNO産生に関する電磁環境整備に時間を要した。超音波によるNO産生量は、酸化膜電極を用いるNOメーターによって測定されるが、超音波照射を行う本法では、超音波振動子駆動系からの漏えい電磁波が強く、この成分がNOメーター内に混入していた。すなわち超音波の発射が振動子から出されていなくとも、振動子駆動系に500KHzの信号を印加すると、NOメーターはその積分値をあたかもNO産生量の如く表示するという危険があった。実験動物を電気的に浮かしながら、測定系としては完全にシールドする超音波照射実験系を設計製作する必要がある。このシールド環境の整備、及び実験的な確認のために、約1ヶ月を必要とした。3)培養細胞をラット下肢外側に生着させる際に、その生着率の低さ、また腫瘍成長の個体によるばらつきが大きく、X線超音波併用法の効果を定量評価する為の主要サイズを適切に設定し、早期癌状態、中期がん状態、末期がん状態に分けて検討する為の腫瘍成長速度の標準化の事前の実験に約1ヶ月半~2か月の時間を要した。 これらの理由により、初年度の所期の目的は概ね達成しているが、実験精度、比較統計学的検討等に時間的送れがやや生ずることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に於いて本プロジェクトを円滑に進めるための基盤を整えた。特にNO測定系の電磁環境の整理、安全で漏えいの無いX線照射環境の整備、腫瘍サイズとその成長過程を踏まえた実験プロトコールの確率等について、再現性の高い実験系を整え得た。 この基盤の上に(1)超音波強度とNO産生量の定量的関係の明示(2)腫瘍内低酸素領域の確定とそれを踏まえた放射線感受性NOによる殺細胞効果の病理組織学的評価(3)腫瘍の早期(直径約10mm未満)、中期(直径10~20mm未満)、末期(直径20mm以上)の各成長過程におけるO2濃度の腫瘍内分布を測定し、その低濃度O2領域に対し放射線超音波併用法を適用し、低酸素下での有効性を評価する。 この実験過程の間、固形がん組織内でのNO濃度、O2濃度を実時間測定し、腫瘍退縮とそれら放射線感受性物質の濃度との関係を明らかにする。 さらに超音波によるNO産生のメカニズムをin vitro実験で明らかにする。これによってX線超音波併用治療法の基本メカニズムについて実証的に解明する。また、動物実験における腫瘍内外の病理組織学的状況を安全性の観点から分析し、安全性確保のための閾値を明瞭にする。 以上の実験的検討を通して、新たな放射線超音波併用がん治療法の新技術展開の基礎を示すものとする。この挑戦的実験、即ち2つの物理エネルギー併用法が真に固形がん治療に有効かどうかを、しかも安全な条件で実用化可能性があるかどうか、判断し得る基礎的データを明示する事を以って成功とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は実験環境を整えるために、様々な持具等、カットアンドトライ的な試行錯誤を繰り返してきた。最終的には極めて安定、且つ再現性の高い実験環境を整える事が出来た。その環境整備に時間を要し、実際に実験を行う為の動物、医薬品等の支出が行われなかった。 次年度は、主にその実験に供する消耗品費として支出する。その主な購入品は、NO電極、O2電極、フィッシャーラット、9L細胞、病理組織学的検査料、及びデータ保守管理用記憶媒体等である。
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