研究課題
挑戦的萌芽研究
生体内ではアポトーシスを起こした細胞は、マクロファージなどの貪食細胞によって速やかに除去されている。この過程が損なわれると、アポトーシス細胞は後期ネクローシスに移行し、自己の成分を漏出させる。これが自己抗体の出現や炎症などを引き起こし、生体内の恒常性の破綻につながる。これまでの報告から、アポトーシス細胞の消去を行う貪食経路として 3 種(Abl/ Abi、ELMO/ DOCK180 および ABC/ MFGF10/ GULP/ dynamin シグナル経路)が明らかにされている。本研究では、G タンパク質共役型受容体(GPCR)の活性調節を行うとのみ考えられてきたリン酸化酵素6(GPCR キナーゼ:GRK6)が、これまでとは異なった経路で貪食を仲介していることを明らかにした。 GRK6 は、GIT と Ezrin/Radixin/Moesin (ERM)と結合することで、最終的に Rac1 を活性化し貪食を促進させていた。GRK6 を介した貪食は内在性のマクロファージでも観察され、GRK6 をノックアウトさせたマウス(GRK6-KO マウス)は自己免疫疾患の一つ全身性エリテマトーデス様の症状(抗二本鎖 DNA 抗体の発現と免疫複合体の腎臓への蓄積)を示した。また、GRK6-KO マウスの脾臓を調べたところ、アポトーシスを起こした B 細胞を貪食する白脾髄では、マクロファージによって貪食されずに残っているアポトーシス細胞の数が野生型に比べて多く観察された。一方、老廃赤血球を処理する赤脾髄では、赤血球が処理されないために鉄の蓄積が増加していた。これらの結果は、GRK6 がアポトーシス細胞の貪食を仲介する新たな分子であり、機能の低下は自己免疫疾患の発症や赤血球のリサイクリングに影響を与えることを示している。本研究は、これまで GPCR の活性調節を行うのみと考えられていた GRKの生体内での新たな役割を明らかにした。
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