研究課題
挑戦的萌芽研究
HIV 感染症に対する抗ウイルス剤の開発と治療法はウイルス感染症治療のなかで近年最も進歩したものの1つである。しかし、多剤併用療法を受けながらも効果が十分にあがらず、ウイルスの増殖抑制に失敗する症例も数多くあり、治療薬剤に対する耐性を獲得した HIV 変異株の出現が主な理由として挙げられる。 そこで、薬剤耐性変異ウイルスを標的とした新たな薬剤開発が求められている。申請者は、HIV RNA を保護している HIV カプシドコアが崩壊する過程(脱殻過程)に関与する宿主因子プロリルイソメラーゼ Pin1 を発見した。本研究では、Pin1 がカプシドコアを認識する部位に存在する Ser16 残基のリン酸化を触媒する酵素の特定とその阻害剤の探索、および Pin1 に対する阻害剤を探索することで、薬剤耐性ウイルスの出現を抑えた新規抗 HIV 剤の探索を行うことを目的としていた。その結果、申請者は Ser16 残基をリン酸化する酵素として ERK2 を見出した。この ERK2 に対する阻害剤 sc-222229 を 100 nM でHIV 持続感染細胞に処理した場合、ウイルスの産生量そのものには変化がなく、持続感染細胞そのものの増殖には影響がなかった。しかしながら、予想通りウイルス粒子内のカプシドの Ser16残基のリン酸化が阻害され、また、qPCR を用いた逆転写過程の解析や in vitro 脱殻アッセイによって、sc-222229 で処理された HIV 持続感染細胞から得られたウイルスは逆転写過程および脱殻そのものがうまくいかないことで感染性が低下することを明らかにした。なお、ERK2 に対する siRNA を用いた実験でも同様の結果が得られたことから、ウイルス粒子内への ERK2 の取込みを阻害するような阻害剤は、新たな抗 HIV 剤として開発できる可能性がある
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巻: 59 ページ: 245-253
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