研究概要 |
材料表面に吸着したタンパク質の配向・形態変化をin situで評価できる手法の確立を目指し,蛍光標識した抗体の吸着挙動を表面プラズモン励起蛍光分光法(SPFS)を用いて測定した。蛍光標識抗体を吸着させると,抗体の吸着状態によって蛍光分子-金表面間の平均距離が変化し,その距離に依存した蛍光エネルギー移動による消光が起こることを利用した。具体的には,抗体吸着時の反射光強度および蛍光強度を同時計測した。反射光強度変化は吸着量に比例し,蛍光強度は吸着量および蛍光分子-金間距離に関する2つの情報を含んでいる。このため,蛍光強度を反射光強度で割り,抗体分子当たりの蛍光強度を様々な基板表面間で比較した。 23年度は,メチル基(CH_3)およびアミノ基(NH_2)を有する自己組織化単分子膜(SAM)をモデル表面として用い,蛍光標識した抗α-フェトプロテイン(AFP)抗体の吸着状態を比較した。抗体分子当たりの蛍光強度を比較すると,NH_2-SAMの方が低くなったことから,NH_2-SAM上の抗体は変性もしくは表面に横たわった形態(side-on)を取ることによって蛍光分子-金の平均距離が小さくなったと考えられる。 24年度は,抗体がその抗原認識部位を基板表面側に向けて吸着(下向き吸着)したときの蛍光強度を評価した。NH_2-SAM表面にフルオレセイン(FITC)を固定化し,FITCに対する抗体(蛍光標識済み)を結合させた。そのときの蛍光強度を測定すると,NH_2-SAM表面に吸着させたときよりも高い値を示したことから,蛍光計測によってside-on吸着と下向き吸着を区別可能であることが分かった。 以上の結果から,SPFSを用いた蛍光計測によって,吸着した抗体の量的な評価(吸着量)だけではなく質的な評価(配向や形態変化など)も可能であり,タンパク質吸着解析の新たなツールとなり得ることが分かった。
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