研究課題
若手研究(B)
細胞核膜上に多数ある核膜孔には核膜孔複合体が存在しており、約30種類の核膜孔複合体因子から構成されている。この核膜孔複合体の機能は細胞質-核間の物質輸送の制御であるが、細胞内における各器官への分子の誤送は数多い疾患、例えば癌、に関わっている。実際に核膜孔複合体因子のひとつであるRaelの発現が乳癌において重要な役割を担っていることが示唆されている。しかし、核膜孔複合体因子と癌悪性化に関する研究は近年始められたばかりであり、その詳細なメカニズムは未だ不明のままである。上皮間葉移行は上皮系細胞の間葉系細胞への形態的および機能的変換を示し、個体発生に必須な過程とされている。近年、細胞の癌化およびその進展・癌細胞の浸潤能の獲得にはこの上皮間葉移行が深く関与していることが明らかにされ、これまで多くの研究が癌の上皮間葉移行と悪性度や予後との関係を示している。癌の上皮間葉移行誘導機構の解明は、癌転移機構の解明や新規治療法の開発にも貢献するものと考えられている。上皮間葉移行では、E-カドヘリンが上皮系発現マーカーとして知られており、Snai1、Twistやβ-カテニンといった転写因子が上皮間葉移行を調節しているとされている。本研究では、核膜孔複合体因子Rae1がE-カドヘリンと相互作用し、共発現して上皮間葉移行を制御している可能性を見出してきた。また、Raelの結合パートナーである核膜孔複合体因子Nup98がβ-カテニンの核外への移行を制御していることも見出した。Nup98は癌悪性化因子であり上皮問葉移行への関与が示唆されるガレクチン-3と相互作用し、β-カテニンの核内外の輸送を制御することでβ-カテニンシグナル伝達経路をコントロールしていることを明らかにした。現在は核膜孔複合体因子による上皮間葉移行の制御メカニズムについて、さらに詳細な検討を行っている。
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