研究概要 |
遺伝子組み換え樹木は,木質資源の安定的確保の一手段というだけでなく,地球規模の環境問題の解決策として期待が高まっている.しかし,遺伝子組み換えの農作物と比べて,樹木は寿命が長く,種子や花粉の移動性が高いため,近隣の野生類縁種との異形交配により土地固有の個体群の持つ遺伝子構成を破壊すること(遺伝子汚染)が考えられ,遺伝子組み換え樹木が一旦繁殖能力をもつと,近隣の自然生態系に対して不可逆的な負荷を及ぼす可能性がある.そのため,遺伝子組み換え樹木の植林管理を検討する際には,遺伝子組み換え樹木の種子や花粉散布が野生の樹木あるいは"従来"の樹木に及ぼす潜在的な影響を評価することが重要である.これらの影響を踏まえて,森林土地所有者は,遺伝子組み換え樹木導入の便益と費用を評価し,遺伝子組み換え樹木の植林の意思決定を行う必要がある.遺伝子組み換え植物に対する経済分析については,需要者サイドから,遺伝子組み換え植物に対する支払い意思額を推定した研究などが行われているが,供給者サイドから遺伝子組み換え植物や樹木の管理に関する意思決定を解明した研究はまだ,ほとんど行われていない.本研究では,遺伝子組み換え樹木の花粉散布のシンプルな空間的シミュレーションモデルを応用し,森林土地所有者の遺伝子組み換え樹木植林に関する様々な管理戦略(植栽割合,空間配置)が遺伝子組み換え樹木の授粉確率に及ぼす影響を分析した.
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