本研究は、19世紀末フランスの社会学者ガブリエル・タルド(1843-1904)の理論に関する最新の研究動向および同時代の文脈をふまえながら、発明の重要性に注目したタルドの社会・経済理論の思想史的意義を明らかにすることを目的として、研究を行なってきた。とりわけ、発明と資本主義社会をめぐる思想家としてのタルド評価を行うことを目指したものであったといえる。本年度の主な研究課題として、それ以前の思想家をいかにして措定し、発明と資本主義の思想史として描き出すことを挙げていた。具体的には、マルクスとタルドにおいて、発明と技術発展に関する関係を考察することを計画し、タルドの経済心理学における発明と模倣に基づく資本主義観とマルクスの技術発展と資本主義の関係に議論と対比させることで、タルドの議論の思想史的意義を明らかにすることを目指した。しかしながら本年度の研究結果では、同時に行なっていたイノヴェーションを経済成長と結びつけて論じる内生的経済成長理論からの遡及的検討から、アルフレッド・マーシャルやヴィルフレード・パレートなど、19世紀末において発明を論じている経済学者、社会学者は数多く存在していることから、マルクスを離れ、思想史としての文脈をつけるための研究の端緒を切り開いたにとどまった。むしろアルフレッド・マーシャルなどとの関連のなかで、発明と経済的成長を結びつける観点と、タルドのように社会的な変化と発明を結びつける観点という、二つの文脈の対比のなかで、すなわち、19世紀時点において、すでに分化したものとして思想史を描くことができるのではないかという見通しを得た。この見通しをもとに検討を続け、タルドを中心とした発明と資本主義社会をめぐる思想史研究の一層の展開を図りたいと考えている。
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