本研究は、1942年及び1959年に提起された〈近代の超克〉論と同時代文学との協働連関を検証し、戦中戦後それぞれの〈近代の超克〉論が当時の文学表現に及ぼした効果を把握しようと試みたものである。〈近代の超克〉論は、これまで時局に便乗した機会主義的な議論として理解されてきたが、本研究では戦中戦後の〈近代の超克〉論それぞれに先行する国民文学論との結節点を開示することで、〈近代の超克〉論が先行研究によって評価されてきたような単なる超国家主義イデオロギーではなく、昭和文学の中心的課題である「政治と文学」の対立問題を引き受けて議論した文学論であったことを明らかにした。
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