本研究の目的は、ガダマーの哲学的解釈学を教養論の観点から再検討し、その現代的意義を提示することにある。その主要な論点は、差異や異質性の経験を内包したポストモダン的世界において、教養はいかにして可能かを論究することである。ガダマーの教養論、および哲学的解釈学における他者との対話の問題について検討した結果、次の点が明らかとなった。1.自己教育、あるいは自己陶冶は他者との対話を通して行われる。2.予測不可能な他者との対話が論じられていない。この点に、哲学的解釈学の限界がある。3.哲学的解釈学は伝承された文化内容との対話に取り組むことにより、「文化の公共圏」を形成するための論理を明確にするという点で、市民的教養の理論を補完するものである。
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