研究概要 |
我々は,肺腺癌細胞株15株,肺腺癌症例93例のパラフィン切片,肺腺癌442例の遺伝子発現データを使い,肺腺癌でのBRG1,BRMの発現と,病理組織学的特徴,遺伝子異常,気管支上皮マーカー(TTF-1,CK7,MUC1,E-cadherin)の発現とを比較検討し,肺腺癌のBRG1,BRMの欠損は上皮間葉系転換(EMT)に関与する事を明らかにした.まず,細胞株15株において,BRG1変異型6株,野生型9株がみられたが,BRG1変異はBRG1発現が落ちる不活性型変異であった.また,BRG1変異はEGFR,MET,HER2の遺伝子異常と相互排他的であった.BRG1変異型はVimentinを高発現し,気管支上皮マーカーの発現の乏しいEMT形質を示すが,BRG1野生型は気管支上皮マーカーを高発現し,Vimentinの発現の低い上皮系形質を示した.BRM発現低下も同様にEMT形質で多くみられた.次に,肺癌症例93例での免疫組織化学的なBRG1,BRM陰性例(n=11,16)は,それぞれ充実型腺癌に高頻度であり,気管支上皮マーカーの発現低下を伴った.BRG1陰性例はEGFR変異と相互排他的であり,かつ,BAC成分を伴わないが,BRM陰性例はBAC成分,EGFR変異を有する事もあった.最後に442例の遺伝子発現データに基づくクラスター解析,予後解析により,BRG1,BRMの発現低下はやはりEMT形質の癌で高頻度であり,かつ,BRG1,BRMの欠損は有意に予後不良因子であることを示した.以上より,BRG1の変異,欠損はEMT形質をもつNon-TRUtypeの発癌に関与し,一方,BRM欠損はTRUtypeの癌の低分化腺癌への移行過程にも関与する事が示唆された.
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