研究概要 |
ASにおける小脳機能障害メカニズムの解明を目的として、母性Ube3a欠失マウス(以下ASマウス)小脳急性スライスを用いた電気生理学的検討を行った。予備実験において、抑制性シナプスの抑制力を規定するクロライドトランスポーターKCC2の発現が増大していたことから、小脳顆粒細胞プルキンエ細胞におけるGABAシグナルの抑制力を検討したが、優位な差を認めなかった。しかしながら、シナプス外GABA_A受容体を介する持続抑制(tonic inhibition)を検討したところ、ASモデルマウスでtonic inhibitionが約1/3に低下していることが明らかになった。薬理学的検討,および免疫生化学的検討から、tonic inhibition低下の原因として、シナプス間隙よりGABAの再取り込みを担うGABA transporter 1 (GAT1)の機能亢進がtonic inhibition減少の原因であること、さらにGAT1とUBE3AのHEK細胞における強制発現系および小脳ライセートを用いたdegradation asseyによる検討から、GAT1がUBE3Aのsbstrate存在することを明らかにした。シナプス外GABA_A受容体選択的アゴニストTHIPの投与により、ASの小脳機能不全がin vitro, in vivoともに改善されたことから、GAT1 degradationの機能不全によりGABA抑制,特にtonic inhibitionの低下がAS小脳機能障害のメカニズムとして重要であることが明らかになった。 本研究の成果として、これまでまったくメカニズムが不明であったASの小脳機能障害について解明をおこない、全く新しい治療戦略の可能性を提示した。小脳顆粒細胞のtonic inhibitionが、病態生理として意味をもつことを疾患モデルマウスとして初めて示した。更にGABA抑制機能の調節因子として注目されるGAT1の分解,ターンオーバーについて新たな知見を加えるとともに、GABA抑制系にかかわる膜蛋白がコビキチン-プロテアソーム系により機能制御をうけることを初めて示し、新たなシナプス可塑の形を提示することで、臨床医学のみならず、基礎神経科学の分野にも一定の貢献を与えるものとなった。
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