研究概要 |
内耳原基である耳胞に操作を加えること、遺伝性難聴の治療法としてまたは発生過程にある内耳における遺伝子や蛋白質の機能を調べる上でも、魅力的な方法である。一方、蛋白質導入法は、遺伝子の翻訳産物である蛋白質を直接細胞に導入し、その機能を解析する方法である。我々は、富澤らの好意によりポリアルギニンをN末端に9個付加したEGFP(EGFP-9R)と11個付加したEGFP(EGFP-11R)の供与を受け、既にポリアルギニンを用いて胎生期内耳(耳胞)へ正常蛋白質を導入することに成功していたため、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子p27^<KiP1>を用いて、耳胞での細胞内情報伝達制御が可能であるかどうか検討することを目的とした。p27^<KiP1>は、内耳原基細胞で発現しており細胞周期を抑制し、増殖・分化を抑制することが報告されている(Lee YS, Development 133, 2006)。そこでまず、本年度はマウスcDNAライブラリーより、クローニングキットを用いp27^<KiP1>をクローニングし、p27^<KiP1>プラスミドを作製し、EGFP-9Rにp27^<KiP1>を組み込んだ融合蛋白質(EGFP-p27^<KiP1>-9R)とEGFP-p27^<KiP1>-11Rを作成した。 蛋白質導入法の欠点としては、導入した蛋白質の発現時間が短いことが挙げられる。この対策として、MichiueらはインフルエンザウイルスのヘマグルチニンHA2サブユニットを用いたマクロピノソームリリーシングペプチドによるリリーシング技術を報告した(J Biol Chem, 280, 2005)。この技術により、蛋白質の発現時間延長が可能となった。EGFP-9Rにp27^<KiP1>とHA2を組み込んだ融合蛋白質(EGFP-HA2-p27^<KiP1>-9R)とEGFP-HA2-p27^<KiP1>-11Rを作成した。 また、EGFP-p27^<KiP1>-9R、EGFP-p27^<KiP1>-11Rを正常マウス耳胞(E11.5)へ投与し、内耳原基細胞の細胞周期が抑制されるかを確認するための予備実験として、EGFP-9R、EGFP-11Rを導入したマウスの胎仔頭部を離断し、固定を行った後、凍結切片を作成し、免疫染色にて内耳原基細胞でのp27^<KiP1>の発現を確認した。
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