研究概要 |
本研究では,成人期,高齢期を対象とした「食べ方」に焦点を置き,食物を捕食し,咀嚼,嚥下するまでの一連の過程における顎運動および筋電を測定し,測定データを分析することで,食育支援のための顎機能評価法の考案を試みることを目的とした. 顎口腔機能に自覚的・他覚的に異常を認めず,第三大臼歯以外に欠損のない成人7名(21~44歳,平均年齢27.8歳)を被験者とし,顎運動と筋電の同時測定を実施した. 顎運動測定には6自由度顎運動測定器CS-IIiを使用し,筋活動は咬筋,側頭筋,顎二腹筋より双極誘導し,小型4チャンネル筋電図アンプ(ニホンサンテク社製BA1104m(EMG))に入力した.GPS同期型刻時装置のパルス時刻コード(IRIG-B)にて両データの時間的対応を図った.(徳島大学病院臨床研究倫理審査委員会承認:1312) 被験運動は,各種限界運動,ストッピング噛みしめ,咀嚼運動,飲水とし,咀嚼中の顎運動,筋活動の推移や運動の滑らかさなど12項目についてデータ解析した.中でも主機能部位記録の際の作業側咬筋活動開始時と最大筋活動時の下顎頭運動に注目し,運動論的顆頭点における下顎頭の偏位量を求めて検討を行った. 結果,筋活動開始時(物を噛み始めたとき)には,作業側下顎頭は平衡側下顎頭に比べて咬頭嵌合位の下顎頭位に有意に近い位置に復位していた.最大筋活動時には両側下顎頭ともに咬合嵌合位に近い位置に復位していたが,平衡側下顎頭は作業側下顎頭よりも有意に内上方にあり,上下的には咬頭嵌合位の下顎頭位より上方に偏位していた.習慣性咀嚼側と非習慣性咀嚼側との比較では,筋活動開始時および最大筋活動時ともに,両側下顎頭の偏位量に有意差は認められなかった.このことは咀嚼運動時の下顎頭の動態と同様の傾向にあり,主機能部位記録時の下顎頭運動の解析が「噛みやすさ噛みにくさ」の客観評価法に繋がる可能性が示された.
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