研究課題
若手研究(B)
【目的】頭蓋顎顔面領域に形態異常を呈する先天性疾患には、矯正臨床と深く関わるものが多く、これまでに42疾患が歯科矯正治療に対する健康保険の適用となっている。中でも頭蓋冠縫合部早期癒合症は、胎生期に頭蓋冠縫合が癒合する先天性骨系統疾患であり、線維芽細胞増殖因子(FGF)/FGF受容体(FGFR)シグナル異常に起因するものが多く報告されている。アペール症候群(AS)は、頭蓋冠冠状縫合部の早期癒合と中顔面部の劣成長を伴う不正咬合、四肢の合指症を主徴とする疾患である。FGFR2におけるアミノ酸置換(S252WまたはP253R)が報告されており、FGF/FGFRシグナル異常に起因した機能獲得型変異が原因であるといわれているが、詳細な病態成立機序は不明である。当分野では可溶型FGFR2(sFGFR2)の骨芽細胞分化に対する抑制効果を報告してきた。本研究は、S252W変異を含むsFGFR2の精製タンパク質(sFGFR2Ap)が、頭蓋冠縫合部早期癒合症に及ぼす効果を検討することを目的とした。【試料および方法】COS-7細胞にsFGFR2Apを強制発現させ培養上清より精製を行った。担体として疎水化多糖ナノサイズゲル微粒子(ナノゲル)を用い、sFGFR2Apとの複合体を作製した。胎生15.5日齢ASモデルマウス(n=4)より頭蓋冠を摘出し、冠状縫合部の片側にはナノゲル(対照群)、反対側にはsFGFR2Ap-ナノゲル複合体(実験群)を適用し、4日間の組織培養後、HE染色法により縫合部の組織学的解析を行った。【結果および考察】冠状縫合部のHE染色組織像から、対照群では縫合部の癒合が観察され(n=4/4)、実験群では縫合部の開存が認められた(n=4/4)。【結論】精製sFGFR2Apの縫合部早期癒合に対する予防効果が示され、AS病態解明および新規治療法開発の一助となる可能性が示唆された。
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