研究概要 |
本研究の目的は,感覚間相互作用を誘発することで簡易な刺激から食にまつわるさまざまな感覚を作りだす手法を明らかにし,限られた化学物質・食品から多様な味・食感・ボリュームを体験することができるバーチャルな食体験システムを実現することである.VRによる食体験の合成は,その中心となる味覚提示手法が確立されていないためほとんど研究が進められてこなかった.本申請では,ある感覚が他の感覚刺激と同時に提示された場合,感覚間の相互作用によって本来とは異なる刺激として知覚されるという現象(感覚間相互作用)に着目し,簡易な刺激の組み合わせから食にまつわる感覚を多彩に認識させ,多様な食をバーチャルに体験できる手法の提案と実証を行う. 本年度は,味覚提示に関して,視覚・嗅覚が味覚を変化させる感覚間相互作用にどの程度寄与しているかを明らかにした.また,口腔内への嗅覚提示と鼻部への嗅覚提示それぞれがどの程度味覚を錯覚させる効果があるかについて実験を行い,鼻部よりも口腔内への嗅覚提示のほうが味覚を変化させる感覚間相互作用の効果が大きいことを実証した.さらに,感覚間相互作用を効果的に誘発する拡張現実感生成のため,食品の欠け,割れ,変形などの状態変化に対応可能な物体認識手法を開発した. 食感については先行研究や他グループの研究結果を整理したうえで,適切な刺激の提示方法や咀嚼の検出手法について基礎的な検討を行った. さらに,当初技術的な困難さを予想していた課題である満腹感についても,拡張現実感によって食品の見た目のサイズを変更する手法を構築し,身体と食品との相対的なサイズ比を変化させることで,定量の食事から得られる満腹感を操作できることを明らかにした.これは,これまで提示が難しくほとんど扱われてこなかった内臓感覚を変化させることが可能なシステムという点でも,意義のある成果であると考えられる.
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