研究概要 |
これまでの研究で,19世紀初頭に欧州で開発された人工顔料であるクロムイエローが南アジアの伝統文化財である唐桟(とうざん)布の染色に使われていたことを明らかにし,この技術がわが国にも移入されたこと実験的に証明し,19世紀における東西の文化交流の一端を明かにした。本研究では,まず,クロムイエローを基軸とした東西の文化交流の発展を広く明らかにすることを目的とする。具体的には,同時代のヨーロッパ更紗(さらさ)などの染織品,浮世絵および油絵などの絵画材料を研究対象として広げ,透過電子顕微鏡等の先端的分析法で物質情報を蓄積する。 (1)これまでの研究を発展させる研究については,羊毛および絹中の析出物の微細構造と,これらのデコレーション法による繊維の構造を明らかにする。また,クロムイエローと同様な鉱物粒子で染められたカーキ染めの内部微細構造と発色との関係を明らかにする。カーキ染めは歴史的に鉱物染料から硫化染料に替わっており,これらの耐久性の比較を光照射,湿熱試験等で比較研究する。また,これまでに開発したデコレーション法で各種の天然繊維の構造解明に挑戦する。これまで,数種の木綿について本法を用いて比較検討したが,染織文化財には多くの動植物繊雑が使われており,これらの種をどこまで見分けられるかを行う。繊維の種類によって当然繊維中の微粒子の結晶構造,サイズ,分布等が異なるものと考えられ,文化財に使われている主な繊維を選んで実験する。 (2)新たな課題に挑戦する研究では,クロムイエローと同様にヨーロッパで開発され,ヨーロッパ更紗およびわが国に輸入されて浮世絵に使われたプルシアンブルーについて,その微細構造および繊維との関係を明らかにする。
|