研究概要 |
産業廃棄物処分地等における多塩素化ビフェニル(PCB)汚染環境の浄化手段として、呼吸によりPCBを還元的に脱塩素化する微生物の利用が期待されている。本研究は、微生物を用いたPCB汚染環境浄化技術開発の一環として、嫌気性アクチノバクテリアとの共培養物として分離したPCB脱塩素化細菌であるファーミキューテス門Dehalobacter sp.FTH1株の微生物学的特性評価、生理学的評価およびゲノム配列解析を行い、FTH1株のPCB脱塩素化機構を明らかにする。本年度の主な成果として、米国JGI"Halorespiring Firmicutes"ゲノムプロジェクトに参加の下ゲノム配列解析を行いドラフトゲノム解析が終了し、精査解析段階にある。微生物学的特性評価として、Dehalobacter sp.FTH1株の生育至適条件を検討したところ、温度10-30℃、pH6.5-7.5で脱塩素化活性が観察され、電子供与体、受容体および炭素利用性を調べた結果、電子供与体として水素、炭素源として酢酸、電子受容体としては、硫酸、亜硫酸、チオ硫酸、フマル酸、硝酸、亜硝酸、III価鉄、酸素といった一般的な呼吸電子受容体を利用せず、有機ハロゲンのみ利用可能であったから、既知のクロロフレキシ門Dehalococcoides細菌と同じく偏性脱塩素化細菌であることが示唆された。脱塩素化可能な有機ハロゲンは、PCBのうち2,3,4-triCBP、2,3-diCBP、3,4-diCBP、塩素化フタリドのうち4,5,6,7-teCPH、4,5,6-triCPH、4,6-diCPH、4,7-diCPH、塩素化ベンゼンのラちhexCB、123triCB、124triCB、塩素化フェノールのうち2,4,6-triCP、2,4-diCP、2,6-diCPを利用可能で、塩素化エチレンや塩素化エタンは脱塩素化しない芳香族有機化合物に特異的な脱塩素化活性を有していた。また、興味深いことに、FTH1株は35℃以上で失活する性質を有する一方、透過型電子顕微鏡を用いてFTH1株の形熊観察を行ったところ、細胞内に内生胞子上の構造物が観察された。
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