研究概要 |
本研究の目的は,分散型と呼ばれるクラスの非線形偏微分方程式の初期値問題の局所および大域適切性を,広いクラスの(正則性の低い)初期値に対して解明することであり,特に周期境界条件下での(即ちトーラス上の)初期値問題を扱うこととしている.平成23年度は主として以下の3つの成果があり,いずれも論文を投稿中である. 1.非線形Schrodinger方程式と非線形波動方程式からなるZakharov方程式系について,エネルギー空間において2次元・周期境界条件下での初期値問題を考察し,初期値の大きさが対応する非線形Schrodinger方程式の基底状態解の大きさ以下であれば初期値問題は時間大域的に適切,またそれより少しでも大きいと解は一般に時間大域的でない(有限時間で爆発(エネルギーノルムが発散)する解が存在する)ことを示した(前田昌也氏(東北大学)との共同研究).これにより,初期値に周期境界条件を課さない場合には十数年前から知られていた事実が周期境界条件下でも同様に成立することが確かめられた. 2.1と同様の初期値問題で,エネルギー空間に含まれない広いクラスの初期値に対して時間大域適切性を得た.証明の手法として交付申請書に記載したI-メソッドに加え,波数間の共鳴現象の解析に基づいた修正エネルギー汎関数の構成を行い,先行結果を大幅に改善することに成功した. 3.冪乗型の非線形項を持つ非線形Schrodinger方程式(空間1次元で5次の非線形項,および2次元で3次の非線形項)の周期境界条件下での初期値問題について,尺度変換で不変な臨界正則性の空間に属する初期値に対しては,初期値と解との対応が十分小さな初期値を考えたとしても滑らかになり得ないことを示した.これは周期境界条件のない場合と比較したこの問題の本質的な困難さを表しており,適切性の解明にむけての重要な示唆を与えるものである.
|