研究概要 |
現存の血管新生阻害剤は「腫瘍血管は正常な血管」という基本概念のもと開発されてきたことが考えられる。しかし近年、腫瘍血管内皮細胞は正常血管内皮細胞と比べ形態学的、遺伝学的に異常であることがわかってきた。これまで申請者の所属する研究グループは、腫瘍血管内皮細胞の分離・培養に世界に先駆けて成功し、それらが、正常血管内皮に比べ、growth factorや薬剤への感受性や遺伝子発現,増殖能,遊走能などが異なることを報告してきた。(Hida et.al, Cancer Res 2004, 2005, 2006, Cancer Sci 2009, BBRC 2010, Br.J Cancer 2011, Int J Cancer 2011)しかしながら、腫瘍血管内皮細胞が異常性を獲得するメカニズムはほとんどわかっていない。 今回我々は高転移腫瘍培養上清のサイトカインアレイを行い、特定のサイトカインがコントロールに比べ多く含まれていることを突き止めた。そのうち腫瘍細胞由来のVEGFが正常血管内皮に作用し多剤耐性遺伝子MDR1の発現亢進を伴い抗がん剤に対し薬剤抵抗性を獲得することを見出した。(Akiyama et.al, Am J Pathol 2012) また、腫瘍培養上清から分離した微小胞が正常血管内皮に取り込まれ、運動能、管腔形成の亢進を引き起こすことを見出した。(Kawamoto et.al, PLoS ONE 2012) これらの結果は腫瘍微小環境における腫瘍血管の異常性の獲得の原因因子として、腫瘍細胞によって産生されるサイトカインや微小胞(微小胞中のmicro RNAも含め)などであることが示唆される。その原因因子を抑えることで腫瘍組織内の腫瘍血管新生の制御につなげることを目指すための基盤研究として非常に重要である。
|