研究概要 |
がん細胞では、その急速な増殖様式に適応すべく、正常細胞とは違った代謝経路を使う事が知られている。例えば、多くのがん細胞では酸素存在化でも、エネルギー供給源を酸化的リン酸化ではなく、解糖系に多く依存しており、これらはWarburg効果として広く知られている。また正常細胞ではTCAサイクルに供給される基質は、解糖系由来もしくは脂肪酸酸化由来のピルビン酸、アセチルCoAが主であるが、がん細胞では、アミノ酸代謝、特にグルタミン酸由来のα-ケトグルタル酸が好んで使われる。このように、がん細胞では、正常細胞とは異なった特異的な代謝経路を有しているが、それらの制御機構は未だ不明な部分が多い。NAD依存性脱アセチル化酵素Sirtuinは様々なタンパク質を基質とし、それらの脱アセチル化を通して老化・老化関連疾患に関わっている。ミトコンドリアにはSIRT3,4,5の3つのSirtuinが局在し、特にSIRT3はミトコンドリア内の代謝酵素を基質とし、がん細胞での代謝に関わっているが知られている。そこで今研究では、もう一つのミトコンドリアSirtuinであるSIRT5が、がん細胞において代謝経路の制御に関わっているのかを明らかにすべく、がん細胞特異的な新規基質の同定を含め、SIRT5のがん細胞での機能解明を目指した。本年度は新規基質の候補として幾つかのタンパク質を同定した。それらは、今までに、ミトコンドリアSirtuinの基質として報告されていない、新規基質候補であった。また、SIRT5の欠損もしくは過剰発現したがん細胞株における代謝産物のプロファイリングを行うため、LC-MSによる、代謝産物の半網羅的定量ができる実験系の準備を行った。今後は、同定した基質候補について詳細な解析を行うとともに、上述の実験系を使って、代謝プロファイリングについて検討していきたい。
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