本研究の目的は、個々の生徒が学習内容を言語によって「物語る」ことで、学習そのものに対する「前向きな」意味を生成させようとするものである。具体的には、授業で他者との意見交流を中心とした「協同的な学習」を行い、それを授業後に評論文として書かせる(物語らせる)ことで、生徒の意識にどのような変容が現れるかを検証した。1年生3学級120名に対し、小説「麦わら帽子」の授業を行い、その後ノート等の記録をもとに「評論文」として学習の過程をまとめさせた。その際、前年度の生徒の書いた評論文集(優秀なもの10名分)を与え、評論文作成の参考とさせている。 評論文の提出率は93%(未提出8名)、提出者の平均は400字詰め原稿用紙9.3枚。内容を表現と思考の面からルーブリックを用いて評価した。評価の観点は、表現が(1)適切な段落分け(2)正確な引用(3)適切な接続詞の使用(4)ナンバリング、思考が(1)新しい認識の付加(2)他者への反論(3)意見の変容の自覚(4)「物語る」効果のメタ認知とし、それぞれ3項目以上をAA、2項目をA、1項目をB、該当なしをCとして評価した。 結果は表現がAA50名、A39名(合わせて74%)、思考がAA50名、A32名(合わせて68%であった。これは同時に行ったアンケートの「評論文を書いているうちに新たな考えが浮かんだ」の「はい」45%、「かなり」27%(合計72%)、「評論文を書くことで作品の理解が深まった」の「はい」45%、「かなり」33%(合計78%)と重なる。 特筆すべきは、「評論文を書くことが国語の力を高めるのに役立つと感じた」が「はい」45%、「かなり」34%(合計79%)に達したことである。自己の学習内容を「物語る」作業(文章表現する作業)は相当苦しい作業である。しかし、作品の理解を著しく促進し、自己の成長を自覚させ、学習意欲を向上させる効果があると考える。
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