本研究の目的は、上級学校や上級学年の生徒が教師役になるという実践に着目し、ミニティーチャーを取り入れた総合的な学習の時間の意義と活用を状況的学習論と調査研究から明らかにすることである。まず高等学校と中学校を中心にミニティーチャーの授業実践をしている学校の実例を収集した。その中から高校生が小学生に授業を教える実践を継続して行っている学校を抽出して質問紙調査を実施し、定量的な分析と質的な研究を同時に試みた。その結果、学習とは、「できる」ことを積み上げていくことではなく、「なりたい」自分を感得していきながら、かつ、共同体において社会的にも文化的にも重要とされる実践を試み続けて徐々にそこへ参加していく営みとしてとらえる状況論的アプローチが有効であることが明らかになった。 とりわけ、小学校における高校生のミニティーチャーの取組みは、次の5つの教育効果をもたらすことが明らかになった。(1)小学生を相手に実際に授業をするという行為は、社会的実践の文脈において価値を創造する行為であり、自らの行為が他者に役立っていると感じ、有能感や自己効用感を高める。(2)教える側に回ることで「する側」の行為となり、自主性を伸ばし自立性を高める。(3)他者と積極的に関わりながら自分づくりに挑戦し、アイデンティティの形成を促す。(4)授業を実際に行うという本物のアリーナへのアクセスの中で、自律的な学びを創出し、責任感を育む。(5)内発的動機づけや自ら学ぶ・やる意欲を高める。 >学校における望ましい学習の過程と形態について、学校現場の実態を踏まえた調査研究から明らかにしたことが本研究の重要な発見である。今後の課題は、ミニティーチャーを取り入れた学習活動について、高等学校に限らず、大学や社会教育施設等においてどのような効果があるかを検討することである。
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