本研究では、奄美・沖縄諸島の固有種であるオキナワアオガエルの種内系統関係、とくに本種の奄美・沖縄諸島の集団をそれぞれ固有亜種とする現行の分類体系の妥当性について、おもに分子生物学的手法に基づいてその検討をおこなった。 まず生息調査を兼ねた採集をおこなうことで、これまでに本種の生息が示唆されている島のうち、本種が実在する島をあきらかにした。本種の生息が確認されたのは、奄美諸島では奄美大島と加計呂間島、徳之島、沖縄諸島では沖縄島と瀬底島、伊平屋島、久米島であった。次に、採集された標本から組織サンプルを採取し、ミトコンドリアDNAのチトクロームb領域の塩基配列(およそ900塩基)を指標とした系統学的解析をおこなった。その結果、本種の奄美諸島の集団と沖縄諸島の集団は、それぞれ単一の系統群を形成すること、そして両者の間には同属種間に匹敵する比較的大きな遺伝的差異(平均遺伝距離=90%)がみられることがわかった。さらに奄美大島と沖縄島では、それぞれの島内において、遺伝的に分化した集団が複数存在していた。また、与論島(奄美諸島)の絶滅集団については、2個の化石標本からDNAを抽出し、PCR法による特定の塩基配列の増幅を複数回試みたが、成功しなかった。 本研究の結果は、現行の本種の分類と矛盾するものではない。しかしこの両"亜種"の間に比較的大きな遺伝的差異が存在することがあきらかにされたことから、両者の現在の分類学的地位の妥当性について、他の分類学的知見も加味しながら今後検討される必要があることを示すものとなった。
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