○調査目的:オオワシとオジロワシは、その多くが冬季に北海道に南下して越冬する冬鳥であり、主に魚食であるため、ほとんどの越冬個体は海岸沿いに生息している。しかし、近年、両種が北海道の内陸部でもたびたび飛来し越冬していることが確認されるようになった。その理由として1990年代以降エゾシカの個体数が増加し、その死肉を餌資源として利用するワシが増えたことが考えられる。本調査では北海道の中央部に位置する富良野市の東京大学北海道演習林周辺において、その飛来実態をエゾシカの存在とともに明らかにした。 ○調査方法:調査は観察地を5箇所設定し、各調査地で定点観察を行い、ワシ類を確認したら種を同定し、成長度などの状況を記録した。調査地の2箇所は鳥獣保護区、2箇所は可猟区、1箇所はカモ類などの水鳥が多く越冬する自然沼で行った。それぞれ11月から3月まで、1回の調査で1時間以上の定点観察を各月に1調査地で2回以上行った。また、内陸部との比較のため、沿岸部の大規模越冬地においても1月と3月に同様の調査を行った。沼を除く4調査地においてエゾシカの存在を把握するため、調査地の近くにある林道上に1kmの調査コースを設け、コース上を横断にしたエゾシカの頭数を1~3月までの各月に1回カウントした。 ○調査結果:5調査地において総観察時間74時間にわたる定点観察の結果、のべ個体数で70羽のワシ類を確認し、1時間当たりの確認個体数は0.95羽であった。そのうちオオワシ25羽、オジロワシ42羽、種を同定できなかった個体3羽だった。飛来したワシの成長度では、オオワシ、オジロワシともに79%が成鳥、21%が若鳥であった。調査地別にワシの確認数とエゾシカの生息数との関係をみると、エゾシカが0頭/1kmと1頭もいなかった鳥獣保護区の調査地でワシの確認個体数が0.15羽/1hと最も低く、エゾシカが93.2頭/1kmと最も多かった可猟区の調査地で1.74羽/1hと最も高い結果となった。このことから、エゾシカの存在がワシの個体数に大きく影響していることがわかった。水鳥の越冬沼の調査地ではオジロワシしか確認されず、オオワシの方がエゾシカにより依存していることが示唆された。沿岸部での大規模越冬地における調査では、オオワシ214羽、オジロワシ194羽を確認した。そのうちオオワシの63%、オジロワシの55%が成鳥であった。これらのことから北海道の内陸部に飛来するワシ類は、オジロワシの方が比較的多く飛来し、成鳥の割合が高い傾向にあり、いずれの種もエゾシカを餌資源として高く依存していることが本調査からわかった。
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