研究概要 |
研究目的:昨今、大型鯨類と超高速船との衝突事故が問題視されており、早急な対策が求められている。現在、一部の超高速船には鯨類を忌避させるために、水中音響発生装置(以下、UWS : Under Water Speaker)が設置されているが、十分に機能していないのが現状である。そこで本研究は、鯨類と超高速船の衝突を回避するため、現行のUWSを確実な効果をもたらすものに改良することを目的とした。 研究方法:UWSの改良にあたって、以下の項目について調査・研究を実施した。(1)船舶職員が記録した鯨類発見記録から航路上の衝突危険鯨種を特定した。(2)(1)で特定された衝突危険鯨種の可聴域を鳴音特性と内耳の解剖学的手法により推定した。(3)鯨類への忌避が認められている捕鯨船の音響特性をUWS改良に応用させるため、捕鯨船の走行音を録音し、忌避音の作成に使用した。(4)忌避音の作成(2),(3)の結果から、動物認知行動学的に鯨類のa)逃避行動を誘発し、b)馴化しにくい音響刺激を作成した。 研究成果:各航路の衝突危険鯨種が絞り込まれ、マッコウクジラ、ツチクジラの大型ハクジラ類と、ニタリクジラ、ミンククジラのヒゲクジラ類が衝突危険鯨種として挙げられた。これらの種の鳴音特性と内耳の解剖により各種の可聴周波数と推定し、マッコウクジラは2-5kHzが有効な周波数帯域であること、ツチクジラは現行のUWSは可聴周波数内であること、ニタリ・ミンククジラについては3kHz以下の低周波にシフトすることが必要であることが明確となった。これらの結果を踏まえて、捕鯨船の走行音と動物認知行動学的知見により、忌避音を作成した。今後の課題として、音響刺激を対象種に再生し、反応を調査し、鯨類が最も反応し、馴化を避けられる音響特性を明らかにする必要がある。
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