研究概要 |
現在、医療従事者の尿中から抗癌剤が検出されたとする人的被曝や調製室、安全キャビネット内に抗癌剤が残留するとした環境被曝の報告が相次いでいる。医療従事者における職業的抗癌剤被曝は、微量であるが長期にわたるため生殖毒性や発癌のリスク増加につながる。そこで、光エネルギーを利用して活性酸素を生じ、あらゆる有機物を分解する特性を有した光触媒を利用して、医療環境に残留する抗癌剤を分解し、医療従事者の職業的抗癌剤被曝を低減することが本研究の目的である。 これまでの研究において、安全キャビネット内のステンレス板上に抗癌剤(シクロポスファミド)を実際の飛散状況同様に塗布し、ブルッカイト型二酸化チタン水溶液を噴霧した。これに、近紫外線を12時間照射した結果、シクロポスファミドの分解(分解率83%)を認めていた(佐藤淳也他,医療薬学37(1)57-61,2011)。しかし、シクロポスファミド以外の抗癌剤についての分解能については、不明であった。そこで、23年芝の研究にて、複数種の抗癌剤(5-フルオロウラシル、メソトレキセート、パクリタキセルおよびイリノテカン)での分解特性を評価した。 その結果、上記の各抗癌剤において、既報に準じた方法によって、それぞれ分解率は、86%,97%,99%以上(定量限界以下)および87%の分解率が得られた。以上より、光触媒は、シクロポスファミド以外のあらゆる抗癌剤についても普遍的に分解する可能性が高く、医療現場における抗癌剤分解の有用な方法になると考えられた。
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