【研究目的】 肝移植後の合併症として問題視される拒絶反応には、細胞性免疫による急性拒絶反応と液性免疫優位な慢性拒絶反応が知られている。慢性拒絶反応は不可逆的な病変進行を呈すること、有効な治療法が存在しないことから再移植の適応とされる。我々はこれまで、本邦未承認薬のシロリムスを適用した重度胆汁うっ帯を示す肝移植例において、劇的な症状の回復と寛解という転帰を経験し、慢性拒絶反応に対する一手段としてシロリムスの使用を検討するに至った。本研究では、シロリムスを使用した肝移植症例を対象に詳細な検討を行い、シロリムスの適正使用につなげることを目的とする。 【研究方法】 京都大学医学部附属病院にて肝移植を行った患者のうち、慢性拒絶反応と診断され、2005年10月-2011年9月の間にシロリムスを導入した患者10名を対象としてレトロスペクティブに調査を行った。慢性拒絶反応と診断された時点から転帰を調査し、シロリムスの臨床効果により対象を2群に分け、シロリムスの血中濃度や併用した免疫抑制剤、臨床検査値、肝硬変の指標となるChild-Pugh分類やModel for End-stage Liver Disease(MELD)score等について比較・検討した。 【研究成果】 慢性拒絶反応に対してシロリムス治療の効果が得られた5名中4名が小児であり、再移植を施行されたのは1名であった。一方、シロリムス治療が無効であった5名は何れも成人で、3名が再移植を受けた。また、シロリムスの効果が得られた群では、慢性拒絶反応の診断から比較的早期にシロリムスが導入され、その維持血中濃度も高い傾向を示し、MELD scoreも低い傾向を示した。シロリムス導入時点の総ビリルビン値、Child-Pugh scoreは無効群に比していずれも有意に低かった。以上より、慢性拒絶反応に対してシロリムス治療の効果を得るためには、肝予備能がある程度期待できる早期段階からの使用が望ましいことが示唆された。
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