本研究は、α1受容体選択性のゾルピデム服用患者における副腎皮質ホルモン剤併用の影響を明らかにすること、覚醒に関与するホルモンであるコルチゾール分泌と睡眠薬の効果との関連を明らかにすることで、適切な睡眠薬の選択へ応用することを目的とした。筑波大学附属病院に入院中の患者を対象に、セントマリー病院睡眠質問票(改変版)を用いた聞き取り調査を行った。対象は、α1受容体選択性のゾルピデム服用患者および非選択性のプロチゾラム服用患者である。ゾルピデム群およびプロチゾラム群について、さらにそれぞれの群を患者の満足感(不満あり・不満なし)で2群に分類し、ロジスティック回帰分析を行った。独立変数は男性、65歳未満、総睡眠時間6時間未満、中途覚醒回数、副腎皮質ステロイド剤の併用とし、従属変数は不満ありとした。その結果、総睡眠時間6時間未満であることと中途覚醒回数の多いことは両群に共通した不満要因であったが、副腎皮質ステロイド剤の併用はプロチゾラム群でのみ不満要因となることが明らかになった。これより、睡眠薬のα1受容体選択性の有無によって、患者の満足感に違いがあることが明らかとなった。睡眠薬服用における副腎皮質ホルモン分泌への影響について、尿中コルチゾール、尿中17-KGS、尿中カリウムについて12時間蓄尿を行い検討した。その結果、ゾルピデム服用において尿中コルチゾール、尿中カリウムの分泌が上昇し17-KGSの分泌は低下するものの、プロチゾラム服用では、尿中コルチゾールの分泌が低下、17-KGSの分泌が上昇、尿中カリウムの分泌は変動しない傾向がみられた。これより、睡眠薬の受容体選択性の違いにより副腎皮質関連ホルモンの分泌が変動すること、またそれらの現象が睡眠薬の効果に影響を及ぼしている可能性が考えられた。本研究より、副腎皮質ホルモン剤服用患者において、睡眠薬を選択する場合はその受容体選択性も考慮する必要があることが示唆された。
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