研究概要 |
「痛み」は、実質的または潜在的な組織損傷に結びつく、あるいはこのような損傷を表わす言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験であると定義されており(世界疼痛会議)、この定義に基づき、ぶつけたり、転んだり、つねった痛さを「感覚としての痛み」、痛みに伴うさまざまな感情、感情に伴って起きた痛みは「感情としての痛み」として分類される。「感覚としての痛み」は、損傷した組織から放出されたカリウムイオンやブラジキニンなどの化学物質が痛覚神経の末端にある痛覚受容器を刺激して引き起こされ、鎮痛には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs)が用いられる。 アセトアミノフェンは、中枢性(脳および脊髄内)のCOXを阻害し、疼痛閾値を上昇させることにより鎮痛効果を発揮する薬剤であり、末梢性のCOXの阻害作用を示さないことから消化器障害や腎障害、血圧低下、喘息発作の誘発等の副作用を生じないなどの利点を有するが、鎮痛作用を示すアセトアミノフェンの用量は個人により異なり、その用量は1日あたり2,400-4,000mgと幅があるため、いわゆる'医師のさじ加減'によって決定されているのが現状である。これらのことから本申請研究では、確実な鎮痛効果が得られ、かつ安全なアセトアミノフェンの投与量について解析し、アセトアミノフェンによる確実で安全な鎮痛を得るための科学的根拠を得ることを目的として研究を行った。 当院入院中の患者で鎮痛剤としてアセトアミノフェンを1日あたり1500mg以上使用している患者を対象とし、アセトアミノフェン服用前とアセトアミノフェン服用1時間後にアセトアミノフェン血中濃度を測定した。文献やアセトアミノフェンのインタビューフォームを参考にその有効血中濃度を5-20ng/mLとした。アセトアミノフェンを1日あたり3000mgまたは2400mgを朝・昼・夕食後の3回に分けて服用している患者において、朝の服用前の血中濃度は2ng/mL以下であり、服用後は7-16ng/mLであった。一方、1日あたり3600mgを朝・昼・夕食後の3回に分けて服用している患者の昼の服用前の血中濃度は7.2mg/mLであり、これは夜の服用時間から翌朝の服用時間までの間隔が朝の服用時間から昼の服用時間までの間隔に比較して長いことが原因と考えられた。これらのことから、安定した血中濃度を維持し、鎮痛効果を持続するためには、投与量だけでなく投与間隔にも注意が必要であることが明らかとなった。
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