医学・薬学研究の有効な動物モデルとして遺伝子改変マウスそのものの輸送は、1)輸送コストが高額であること(5~10万円)2)輸送中に逃亡・死亡するなどの問題点があること(カルタヘナ法の問題)3)病原微生物感染事故が起こる可能性がある。それらの問題の解決法として、凍結胚あるいは冷蔵胚での輸送が頻繁に行われるようになった昨今ではあるが、さらに簡便な方法として、精巣上体尾部の輸送が可能となれば、上記の問題点を解決するのみならず、片方の精巣上体尾部を外科的に摘出することで、マウスを必ずしも安楽死する必要がないため、動物福祉の観点からも極めて有効的な方法であると思われ、マウス精巣上体尾部の冷蔵長距離輸送を試み、得られた成果を報告する。 本研究では、成熟雄マウスの精巣上体尾部を摘出し、種々の冷蔵保存液の検討を行った結果、Lifeblood社製Lifor臓器保存液を用い、エッペンチューブに浸漬、紙箱に収容した後、魔法瓶に充填した。また、輸送箱としての発泡スチロール箱内は保冷剤を用いて冷却し(8℃)、旭川⇒熊本への冷蔵宅配輸送を行った。 また、その輸送時の温度変化はボタン型温度記録計にて計測した結果、4℃~8℃を維持できた。 冷蔵輸送した精巣上体尾部より、採取した精子を用い、体外受精を行った結果、受精率は84%と通常の体外受精と有意な差が見られない結果が得られた。また、得られた2細胞期胚の4-8細胞期、桑実胚期、胚盤胞期への発生率は、それぞれ、100%、98%、91%であった。また、胚移植により、移植胚の50%にあたる60匹の産仔が得られた。 以上の結果より、本精巣上体尾部の冷蔵輸送法は凍結あるいは冷蔵胚の輸送に比べ、安価であること、貴重な遺伝子改変動物を安楽死に至らしめないことなどの利点があることから、今後、国内輸送のみならず、外国内輸送においても遺伝子改変マウスの輸送法として画期的な方法と成りうるものと考えられる。
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