研究課題/領域番号 |
23H00021
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分3:歴史学、考古学、博物館学およびその関連分野
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
北條 芳隆 東海大学, 文学部, 教授 (10243693)
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研究分担者 |
関口 和寛 国立天文台, 国際連携室, 名誉教授 (20280563)
吉田 二美 産業医科大学, 医学部, 准教授 (20399306)
細井 浩志 活水女子大学, 国際文化学部, 教授 (30263990)
瀬川 拓郎 札幌大学, 地域共創学群, 教授 (30829099)
後藤 明 南山大学, 人類学研究所, 研究員 (40205589)
渡部 潤一 国立天文台, 天文情報センター, 特任教授 (50201190)
辻田 淳一郎 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (50372751)
高田 裕行 国立天文台, 天文情報センター, 専門研究職員 (50465928)
石村 智 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 無形文化遺産部, 部長 (60435906)
田中 禎昭 専修大学, 文学部, 教授 (60751659)
白石 哲也 山形大学, 学士課程基盤教育院, 准教授 (60825321)
白川 美冬 東海大学, 文明研究所, 特定助手 (70982297)
岡林 孝作 奈良県立橿原考古学研究所, その他部局等, 学芸アドバイザー (80250380)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,470千円 (直接経費: 31,900千円、間接経費: 9,570千円)
2024年度: 12,090千円 (直接経費: 9,300千円、間接経費: 2,790千円)
2023年度: 14,300千円 (直接経費: 11,000千円、間接経費: 3,300千円)
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キーワード | 考古天文学 / 天体への認知 / 先史・原史社会の暦 / 古代の星辰信仰 / 景観史 / 過去の天体運行 / 天文古記録 / 星辰信仰 / 天文民俗 / 先史時代の暦 / 天体景観への認知 / 太陽信仰と月信仰 |
研究開始時の研究の概要 |
過去の天体景観を、高精度の再現システムによって復元しつつ、日本列島社会の歴史を再構成する目的のもと、過去4年間の共同研究の成果を基礎に、本研究では天文学と考古学、文献史学を横断した共同研究体制をとる。そのうえで日本列島の諸文化は各種の天体現象をいかなる状況下で認知し価値づけ、信仰の対象とし、あるいは暦の指標としたのかを、通時的な視座のもとで解明する。 さらに各地・各時代の主要な遺跡・遺構に天体景観再現システム〈Arc Astro VR〉を組み込むことを通じ、誰でも点検と検証が可能な研究環境を整える。これによって日本の考古学・歴史学に考古天文学の有効性を認知させ定着をはかる。
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研究実績の概要 |
2023年度の上半期には当初の計画にはなかった考古学班と天文学班に関わる新発見があり、新たな研究課題と向き合うことになった。佐賀県吉野ヶ里遺跡から発見された箱式石棺墓の蓋石に刻まれた無数の十文字刻みである。隣接の瀬ノ尾遺跡からも酷似した資料が出土しており、双方の資料について、現地の天文景観を描写した可能性を軸に検討中である。暫定的仮説は3世紀代の夏の天の川の描写であるため、全メンバーで各分野における天の川の意味をめぐる支援情報を収集し、2回にわたって検討会を実施した。 2019年度に文献史学班が着手した星辰信仰に関わる古記録データベースの作成はほぼ完成の域に達した。本年度は最終チェックを進め、とくに日蝕記事に焦点を当て、天体運行シミュレーションに沿った過去の実態との比較点検を実施した。この課題に関連して各種天体運行再現システム間の整合性と信頼度の点検を行った。 天文民俗研究では、これまで天文民俗班メンバーが個々に日本各地で調査・収集した天文民俗データを順次整理し、アイヌ文化、大和文化、琉球文化の3区分による比較考察研究を開始した。また認知天文分野では、認知心理学と天文景観理解の融合を計り、ヒトの宇宙観形成にいかなる生理的・認知的機能が寄与するかの初期的研究を開始した。 今年度は大分県宇佐市の小橋遺跡を対象に3世紀代の星空を再現するエアドーム・プラネタリウムの上映を計画し、12月には宇佐市教覚寺を会場に一般向けに公開し、盛況であった。第7回考古天文学会議も同地で開催し、今年度の各班による研究成果を公開し、今回は暦と陰陽道に焦点を当てた意見交換を実施した。 Arc Astro VRはVR上映に関わるバージョンアップを行ったほか、今年度新たに岡山県造山古を組み込んだ。また『アジアの星』の英語版『Stars of Asia』などを組み込むHPの立ち上げに向けた準備を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
4年前から現地調査の対象としてきた佐賀県吉野ヶ里遺跡かは、本年6月に新規の箱式石棺墓が出土し、その蓋石には無数の十文字刻みが施されていた。天体との関連性はないかと佐賀県教育委員会からの照会を受け、本研究の考古学班と天文学班が協働で現地調査を実施した。その結果、蓋石2枚は弥生時代後期から終末期にかけての夏の天の川の情景を描くものであった可能性が暫定案として提示されることになった。こうした予期せぬ新発見資料に接することになり、新たな研究テーマと向き合うことになった。そのため考古学班は弥生・古墳文化の諸遺物に刻まれた十文字の資料を収集中で、文献史学班や天文学班の分担研究者や研究協力者は古代の天の川に対する意味づけを検討中である。 また弥生時代の暦に関しても新たな進展があった。愛知県朝日遺跡から出土した、弥生時代後期の赤色円文12個と黒色円文12個が交互に描かれたパレス壺と、石川県八日市地方遺跡から出土した弥生時代中期末の、12頭の鹿と1人の人間を描く絵画土器の構造を比較することを通じ、冬至の太陽を指標とする太陰暦の可能性が浮上したのである。この試案についても全分担研究者に批判的な評価・点検を依頼している。 このように本研究は、当初の我々の予想を超えて急速な進展をみている。既存の出土品の中にも天体運行に関わりそうな資料は埋没しており、その掘り起こしが進展している。さらに古代の星辰信仰に関わる文献データベースはほぼ完成の域に到達しており、目下、遺漏の有無を点検中である。今後は各種の天体に関する日本古代人の意味づけについて、具体的な分析に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には新規の課題が提起された一方、これまで蓄積されてきた考古天文学的な課題の解明に向けて、これまで以上に組織的な協働体制のもとで研究を進める必要性が明確となった。そのため全班のメンバーが協力しつつ、以下の課題と向き合う。佐賀県吉野ヶ里遺跡から発見された箱式石棺墓の蓋石に刻まれた線刻模様の天文景観解釈に関しては、より精細な調査を続行し仮説の構築をめざす。なお現地の墓域全体についてはarc Astro VR用のデータセット化を進め、併せて本遺跡の甕棺墓群全体を対象に、甕棺墓のコスモロジ-解明に向けた方位分析を進める。arc Astro VR用のデータセット化について、今後は静岡県沼津市高尾山古墳、長野県松本市弘法山古墳と松本城など、考古天文学と景観史に資する遺跡を中心に現地測量を計画する。文献史学班は、過去4年間で完成させた平安期までの星辰関連古記録のデータベースを基礎に、昨年度からの継続課題として、過去の天体現象と実態との突き合わせを行い、記録に残された過去の天体現象の特性を把握する。また太陽や月、惑星や恒星などの出現率の明確な差異やその意味に関する検討をおこない、日本列島の古代社会がもつ天体観の特性を解明する。 天文民俗分野では、とくにアイヌの天文文化について重点的な研究を行い、あわせて3領域比較研究の進展を図る。考古天文分野では、上記2遺跡の認知天文分野では基礎的研究の一環として天文認知シミュレータの開発に着手し初期実験を実施する。上記3領域研究は、いずれも他班との連携を密として文化天文学領域としての総合化も目指したい。 エアドーム・プラネタリウムの公開活動についてはアイヌの天体観に照準を絞った企画を進め、北海道伊達市での公開を計画している。併せて第8回考古天文学会議を現地にて開催する。こうした活動を通して、考古天文学への認知が進展することを期待する。
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