研究課題/領域番号 |
23H00087
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
今井 正幸 東北大学, 理学研究科, 教授 (60251485)
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研究分担者 |
栗栖 実 東北大学, 理学研究科, 助教 (00963943)
川勝 年洋 東北大学, 理学研究科, 教授 (20214596)
佐久間 由香 東北大学, 理学研究科, 講師 (40630801)
浦上 直人 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (50314795)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
48,360千円 (直接経費: 37,200千円、間接経費: 11,160千円)
2024年度: 9,100千円 (直接経費: 7,000千円、間接経費: 2,100千円)
2023年度: 30,160千円 (直接経費: 23,200千円、間接経費: 6,960千円)
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キーワード | ミニマルセル / 進化 / 非平衡熱統計力学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、生命システムの最大の特徴である進化の機能を、セントラルドグマに従わない方法で実装した「進化する自己生産ミニマルセル」を膜面上での鋳型重合を核にして自立した反応ネットワークを構築することにより実現する。また、そのシステムが安定に存在するための非平衡熱統計力学的な条件を明らかにする。特に我々のミニマルセルは、現実の生命システムとは完全に独立した化学反応ネットワーク、構成分子の組成情報と機能を結びつける情報の流れ、持続的なベシクルの自己生産を有するシステムとなっている。このシステムを理解することにより、物質から生命システムが誕生した物理的な背景を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究では「セントラルドグマ」を規範とした現在の生命システムに対して、生体物質とは別の物質群を用い、「セントラルドグマ」とは異なる情報の流れをもつ自己生産系「進化する自己生産ミニマルセル」を構築する。この目的のため以下の3つの観点から研究を進めてきた。1)我々がすでに開発した膜分子と情報高分子の間での双方向的な情報の流れを持つ「自己生産ミニマルセル」に膜分子合成系を導入して自発的に遺伝子型に多様性を持たせる。2)それら膜分子とペアになる情報高分子を導入し新しい種を誕生させ、その得られた種間の競合による進化のプロセスを再現する。3)この「進化する自己生産ミニマルセル」の化学反応のモデル方程式系に非平衡熱統計力学の定式化を行い、さらに遺伝的アルゴリズムの手法を援用して進化のプロセスを追加することで「生命システムおよびその進化の安定性の条件」に関する理論的な解析を行う。 1)についてはグルコースに代えてグルコース-3-硫酸およびグルコース-6-硫酸を原料とし、これをグルコース酸化酵素GODを用いて分解してエネルギー分子H2O2と反応生生物 硫酸化グルコン酸を得る実験を行ったが、収率が非常に悪かったので、新しい戦略を検討する必要があることがわかった。 2)については情報高分子PANI-ESとは別のタイプの情報高分子ポリピロール(PPy)を鋳型重合することによるAOTベシクルの成長・分裂の確認を行い、PPyがPANI-ES同様情報高分子としての能力を持っていることがわかった。そこでこの2つの情報高分子と2種類の膜分子(AOTとSDBS)を用いて、多様なミニマルセルを作製し、その競合実験のための基礎データを集めた。 3)上記ミニマルセルの反応スキームをベースに膜成長とエネルギー散逸からなる系の安定性を表す関数を導出し、その安定性について理論解析を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最大の成果は、今まで1種類しかなかった情報高分子のモノマーユニットPANI-ESに対して新しいモノマーユニットPPyが見つかったことで、情報の多様性をミニマルセルに導入することが可能になった点である。この2つのモノマーユニット(生命システムはA,G,C,Tの4種類)を用いて進化実験を行うこと目処がついた。 また、この反応スキームを用いて非平衡熱力学に立脚した安定性を解析するための評価関数(K関数)の導出に成功し、その理論解析により生命誕生における膜分子合成の重要性を明らかにした点も特筆すべき成果である。
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今後の研究の推進方策 |
まずは2種類の情報高分子PANI-ESとPPyおよび2種類の膜分子を組み合わせた4種類のミニマルセルを用いてベシクルの成長実験を行い、各ミニマルセルの成長速度を測定する。その上で、これら4種類のミニマルセルを混合した共存系を作製し、最もよく成長するミニマルセルがどれになるかを明らかにし、そこから自然淘汰的な進化が起こる過程を実験と速度論的な解析により明らかにする。 次に、このミニマルセル研究から明らかになった膜表面での情報高分子とベシクル成長の連携を定量的に評価するために、脂肪酸ベシクルの成長とペプチドのアミノ酸配列の関係を調べる。配列情報とベシクル成長の関係はスキーマアベレージ法によって定量化し、配列の変化によるベシクル進化の基本モデルを構築する。 また、昨年度導出したミニマルセルの安定性を評価する関数(K関数)を用いて、現在実験で用いている4種類のミニマルセルの安定性を議論する。特に情報分子の出現や膜分子合成と系の安定性の関係を検討し、物質から生命が誕生する理論的な背景を解明する。
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