研究課題/領域番号 |
23H00094
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
山口 敦史 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (70724805)
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研究分担者 |
重河 優大 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 特別研究員 (60845626)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
47,580千円 (直接経費: 36,600千円、間接経費: 10,980千円)
2024年度: 16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
2023年度: 21,710千円 (直接経費: 16,700千円、間接経費: 5,010千円)
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キーワード | 原子核時計 |
研究開始時の研究の概要 |
トリウムの同位体トリウム229 (Th-229) は、共鳴エネルギーがわずか8.3 eVと異常に低い原子核遷移をもつ.8.3 eVは波長に換算すると149 nmの真空紫外であり、レーザーを作ることができるエネルギーである.すなわちTh-229は、原子核を直接レーザー分光することができる、現在知られている中では唯一の元素である.その応用として注目されているのが、この原子核遷移の共鳴周波数を基準とする周波数標準「原子核時計」である.本研究では、原子核時計の実現にむけ、トリウム229イオンをレーザー冷却する手法を確立する.
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、原子核時計の実現を目指し、原子核が基底状態とアイソマー状態と呼ばれる低エネルギー励起状態にあるトリウム229 (Th-229)イオンをレーザー冷却する手法を確立することである。 トリウムの同位体Th-229は、共鳴エネルギーがわずか8.3 eVと異常に低い原子核遷移をもつ。8.3 eVは波長に換算すると149 nmの真空紫外であり、レーザーを作ることができるエネルギーである。すなわちTh-229は、原子核を直接レーザー分光することができる。その応用として注目されているのが、この原子核遷移の共鳴周波数を基準とする周波数標準「原子核時計」である。原子核は、まわりを取り囲む軌道電子による遮蔽効果により外乱の影響を受けにくいため、原子核時計の精度は、既存の原子時計を上回る19桁に達すると予測されている。本研究では、Th-229イオンのレーザー冷却を実現し、トラップ中でのTh-229イオンの運動に起因する原子核遷移のドップラーシフトを抑制することで、原子核時計実現に向けた道筋をつける。 本年度は、原子核がエネルギー8.3 eVの励起状態(アイソマー状態と呼ばれる)にあるTh-229イオンのレーザー分光を行い、その寿命を1400(+600/-300)秒と実験的に決定した。これにより、原子核遷移の自然幅は80 マイクロヘルツ程度であり、高精度な原子核時計を実現するために十分な狭さであることがわかった。また、アイソマー状態のTh-229イオンの超微細構造のレーザー分光を行い、アイソマー状態の原子核パラメータ(磁気双極子モーメント、電気四重極子モーメントなど)を求めた。さらにそれらの結果から、原子核時計の微細構造定数の変化に対する感度を決定した。以上の結果を、論文にまとめ投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、原子核が基底状態とアイソマー状態にあるTh-229イオンをレーザー冷却する手法を確立することを目標としている。その目標に向けて、1年目の今年度は、先行研究のなかったアイソマー状態の価数3のTh-229イオンのレーザー分光を行った。具体的には、電子準位の超微細構造を観測した。これにより、将来アイソマー状態のTh-229イオンをレーザー冷却する際に必要な冷却用レーザーの周波数を実験的に確定させた。また、この超微細構造は、アイソマー状態のTh-229だけを光らせて観測するためにも必須の情報である。将来の原子核時計の動作においては、原子核を励起できたことを確定するために、アイソマー状態のイオンを選択的にレーザーで光らせて観測する必要がある。そのために必要な情報を、本年度すべて実験的に得た。さらに本年度は、アイソマー状態の寿命も決定した。この寿命は、原子核遷移の自然幅を決める、すなわち原子核時計で実現できる性能を見積もるうえで必須のパラメータである。
以上のように、Th-229イオンのレーザー冷却に必要なパラメータを本年度実験的に取得し、次年度以降のレーザー冷却に向けた準備を完了した。よって、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、Th-229イオンのレーザー冷却の実現をめざす。Th-229は核スピンがあるために電子準位に超微細構造が存在し、レーザー冷却に必要なレーザー周波数の構成が複雑である。そこで、まずは核スピンがゼロで電子準位に超微細構造が存在せず、Th-229よりも実験が容易なTh-232同位体のイオンを使ってレーザー冷却を行う。これにより、レーザー冷却に必要な冷却用レーザーの各種パラメータ(レーザーパワー、周波数、偏光など)を明らかにする。Th-232イオンは、固体のTh-232試料にパルスレーザーを照射するレーザーアブレーションにより準備する。Th-232イオンのレーザー冷却は先行研究で実現されているため、基本的には先行研究と同じ手法を用いる。ただし、本研究では、イオンローディング時にトラップチャンバーにヘリウムガスを導入している点が先行研究と異なるため、レーザー冷却のために、そのヘリウムガスを取り除く手法の最適化を行う。Th-232イオンでレーザー冷却手法を確立した後、イオン源をU-233(Th-229イオン生成用のイオン源)に交換し、Th-229のレーザー冷却を行う。 これと並行して、将来実施する予定のレーザー冷却したアイソマー状態のTh-229イオンのレーザー分光に備えて、必要なレーザー装置の開発をすすめる。Th-229イオンの電子準位には超微細構造があるため、そのレーザー分光には多数のレーザー光が必要である。本研究では、光ファイバー型の電気光学変調器(EOM)を使い、1つの分光用レーザーの周波数にサイドバンドを作ることで、必要なレーザーを準備する計画である。今年度の成果から、必要なレーザー周波数はすべて確定しているため、それを網羅できるようなEOMに印加するラジオ波信号の構成方法を考案し実装する。
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