研究課題/領域番号 |
23H00127
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分16:天文学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田中 雅臣 東北大学, 理学研究科, 教授 (70586429)
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研究分担者 |
田沼 肇 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (30244411)
中村 信行 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 教授 (50361837)
加藤 太治 核融合科学研究所, 研究部, 教授 (60370136)
大石 鉄太郎 東北大学, 工学研究科, 准教授 (80442523)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
45,500千円 (直接経費: 35,000千円、間接経費: 10,500千円)
2024年度: 12,220千円 (直接経費: 9,400千円、間接経費: 2,820千円)
2023年度: 14,820千円 (直接経費: 11,400千円、間接経費: 3,420千円)
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キーワード | 中性子星合体 / 原子データ / 重力波天体 / 重元素 / 重力波 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、原子物理と宇宙物理の連携によって重元素の分光実験を行い正確な原子データを構築するとともに、現実的なモデルに基づく輻射輸送シミュレーションを行うことで、中性子星合体の放射スペクトルの正確な計算を実現する。この結果を、今後観測される様々な質量の中性子星合体のスペクトルと比較することで、多様な中性子星合体における重元素合成を検証する。
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研究実績の概要 |
中性子星合体からの電磁波放射「キロノバ」の赤外線スペクトルにおけるセリウム(原子番号58)の同定を確かなものにすべく研究を行った。これまで、セリウムの二階電離イオンが赤外線領域に強い吸収線を示すことを提案していたが、その遷移の遷移確率は実験的に測定されたことがなく、キロノバへの応用でも理論値が使われていた。そこで、宇宙に恒星のスペクトルに着目し、この遷移の遷移確率の推定を試みた。これまでに取得された恒星の赤外線スペクトルを網羅的に調査した結果、通常の恒星にはセリウムの二階電離イオンの吸収線は見えないものの、表面重力の弱い天体で観測され得ることを明らかにした。そこで、赤外線でセリウムの吸収線が観測されており、かつ可視光スペクトルで組成比が測定されている星を用いることで、セリウムの二階電離イオンの赤外線遷移の遷移確率を測定することに成功した。これは同遷移の遷移確率が初めて実験的に計測された例である。この結果をもとに輻射輸送シミュレーションを行ったところ、確かにキロノバの赤外線スペクトルで二階電離セリウムの吸収線が作られることを明らかにした。 また、セリウムに次いでキロノバの赤外線スペクトルで重要となるランタン(原子番号57)に注目して、電気通信大学のレーザー誘起ブレイクダウン分光 (LIBS)装置を用いて、可視光分光実験を開始した。得られた輝線の強度比から遷移確率の推定を行うことができた。同時に、電気通信大学のLIBS装置を用いて赤外線の分光実験を行うべく、赤外線分光装置の検討と立ち上げを行った。 これらの正確な原子データを用いた現実的なキロノバの輻射輸送シミュレーションを行うべく、多次元輻射輸送コードの整備を進めた。流体力学計算結果をもとに輻射輸送シミュレーションを行う環境を整え、実際の計算を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度の研究計画は、(A) 可視光・赤外線分光実験と詳細な原子構造計算による元素の遷移確率データの構築、(B) 現実的なモデルを用いた中性子星合体の多次元輻射輸送シミュレーション、(C) 重力波対応天体の観測と重元素合成の検証の三点であった。このうち、(A), (B)に関しては、上記の通り世界に先駆けてキロノバの赤外線スペクトルの解読を進めており、通常の恒星を使った検証も進めることができた。また、ランタンの可視光分光実験を進め、実際に遷移確率の測定を行うことができた。さらに、赤外線分光実験のための分光装置の立ち上げを行うこともできた。正確な原子データを取り込んだ現実的な輻射輸送シミュレーションも着手しており、これらの研究テーマは当初の計画以上に進展している。 一方で、(C)に関しては、2023年度からLIGO, Virgo, KAGRAによる第4期観測が始まったものの、Virgoが参加しなかったことから重力波イベントの位置が正確に決まらない状態が続いている。実際に中性子星を含む重力波イベントは観測されているものの、電磁波対応天体の観測に成功した例はない。そのため、この研究テーマは当初の研究ほどは進展していないと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に引き続き、3つの研究テーマを進める。
(A) 可視光・赤外線分光実験と詳細な原子構造計算による元素の遷移確率データの構築:2023年度に引き続き、電気通信大学のレーザー誘起ブレイクダウン分光 (LIBS)装置を用いて、キロノバのスペクトルに特徴を作りうるランタノイドの可視光分光実験を行う。特に、赤外線分光装置でのデータ取得を開始する。 (B) 現実的なモデルを用いた中性子星合体の多次元輻射輸送シミュレーション:現在までに構築した最も正確な原子データを用いて、キロノバの多次元輻射輸送シミュレーションを行う。特に、中性子星合体から1日以内の電磁波放射の特徴に注目し、相対論的ジェットの有無や伝播のタイミングがキロノバの特徴にどのように影響するのかを調べる。 (C) 重力波対応天体の観測と重元素合成の検証:重力波の第4期観測にあわせて重力波天体の可視光対応天体の探査観測を実施する。2024年4月からの重力波観測にはVirgoが加わることが予定されており、位置決定精度が高い、中性子星を含む重力波イベントに対して追観測を行い、可視光・赤外線の明るさの時間変化のデータを取得する。また、十分明るい天体に対しては、可視光・赤外線のスペクトルを取得し、(B)で行うシミュレーションの結果との比較を行う。
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