研究課題/領域番号 |
23H00168
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分20:機械力学、ロボティクスおよびその関連分野
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
永井 萌土 豊橋技術科学大学, 次世代半導体・センサ科学研究所, 教授 (00580557)
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研究分担者 |
沼野 利佳 豊橋技術科学大学, 次世代半導体・センサ科学研究所, 教授 (30462716)
石田 忠 東京工業大学, 工学院, 准教授 (80517607)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
47,840千円 (直接経費: 36,800千円、間接経費: 11,040千円)
2024年度: 11,830千円 (直接経費: 9,100千円、間接経費: 2,730千円)
2023年度: 24,180千円 (直接経費: 18,600千円、間接経費: 5,580千円)
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キーワード | 超並列単一細胞加工 / 細胞内デリバリ / 細胞多様性 / オプトポレーション / 単一細胞スクリーニング / 光穿孔 / ロボティック液滴配置 / タイムラプス / ハイドロゲル |
研究開始時の研究の概要 |
最初(A)-(C)の個別技術開発を進め,最終的に統合を行う。(A)細胞種の多様性:細胞をゲル内に固定,穿孔度の調節のために光強度を可変とする。(B)溶液の多様性:多種DNA濃度の液滴を直交ロボットディスペンサで形成し,1枚の基板で10の4乗条件での細胞内デリバリを行う。(C)遺伝子発現の多様性:時空間的な細胞観察で網羅的な探索を行った後,レーザで10の6乗個の細胞スクリーニングを一貫して行う。
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研究実績の概要 |
難病への細胞治療,機能を喪失した組織への再生医療といった先進医療の普及が渇望されている。この普及を妨げる根本原因は細胞の多様性である。具体的には(A)細胞種,(B)DNA量,(C)遺伝子発現の多様性が問題となる。これらの問題の解決として,光音響効果を基軸にし,分解能を高め「網羅的単一細胞光穿孔法」を開発することを目的とした。 多種細胞種への細胞内デリバリを実現するため,微細加工グリッド付きガラスの組み込み可能性を保持したまま,光吸収体,コラーゲンゲルを組み合わせた多層基板を形成した。1層目にはフォトレジストと微細加工でグリッドが形成できる。2層目はゼラチンと光吸収体層,3層目はコラーゲンゲルに細胞を包埋する細胞層とした。コラーゲンゲルにより細胞に抗力を生じさせ,光穿孔時のせん断応力を十分に発生させた。ゲルの厚みはおよそ50μmとし,水分量を調整して長鎖DNAの輸送を確保した。HeLa,HEK293,Jurkat細胞を用いて複数細胞種への適用を示した。 次に,ゲル上へのロボティック液滴配置を目指し,直交ロボットとピペットを用いた。濃厚溶液とバッファー比率を変えて,多種濃度の液滴を形成した。蒸発防止のためフッ素系溶剤を用いた。ゲル破損防止のために,シリコーンゴムノズルやバネの調整,並列ノズルの利用を検討した。 光学系の統合と自動化では,タイムラプス顕微鏡のバックポートからナノ秒パルスレーザ,ガルバノミラーを組み合わせた。1画面約500μm,100細胞に5μmスポット径の光を照射した。ガルバノミラーを統合し、画面内細胞へのレーザスキャンを可能とした。これはPythonプログラミングにより自動化を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究計画は,おおむね順調に進展していると判断できる。その理由は以下の通りである。 多種細胞種への細胞内デリバリについては,微細加工グリッド付きガラスを保持可能な光吸収体,コラーゲンゲルを組み合わせた多層基板の形成に成功している。またコラーゲンゲルによる細胞への抗力付与により、光穿孔時のせん断応力発生を実現できている。さらにHeLa、HEK293、Jurkat細胞を用いた複数細胞種への適用も示した。 光学系の統合と自動化に関しては,タイムラプス顕微鏡のバックポートからナノ秒パルスレーザ、ガルバノミラーを組み合わせた光学系の構築ができている。1画面約500μm、100細胞への5μmスポット径の光照射を実現している。 一方で、ゲル上への液滴配置とXYステージスキャンについては現時点で達成できていない。これらは全体計画の一部であり,主要な進捗には大きな影響を与えないと考えられる。 以上より,コラーゲンゲルを用いた細胞内デリバリの多細胞種への適用、および光学系の統合と自動化について概ね計画通りに進んでいる。一部未実施の項目はあるものの,全体としては順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
(A)細胞種,(B)DNA量,(C)遺伝子発現の多様性が問題となっており,それぞれに対して次の計画で実施する。 (A)単一細胞光穿孔法(細胞内デリバリ)では,マトリックス状に多種のDNA溶液を細胞ゲル上に存在させる。この状態でパルスエネルギを変更し,多種のエネルギ(衝撃波)強度により,細胞膜の穿孔サイズを制御する。10の4乗の実験条件にて,細胞内デリバリ条件の探索と最適化を行う。 (B)単一細胞光穿孔法(細胞スクリーニング技術)では,タイムラプス顕微鏡で得た細胞の特徴量を機械学習のモデルを用いて解析し,物体検出を行う。欲しい細胞の位置座標を得て,ステージとレーザを走査し,ターゲット細胞にのみレーザを照射・殺傷する。スクリーニング後には,コラゲナーゼによりゲルを溶解して細胞を回収する。不要で死滅した細胞が混入するが,必要な細胞の増殖過程で消失する。この培養過程を経ない場合は,単純なフローサイトメトリーで除去する。 (A)と(C)では,光穿孔の理論モデルの構築を行う。衝撃波の強度と抗力に対し,細胞膜強度が破断強度を超えたときに穿孔が生じると考えられる。細胞を保持するゲルは粘弾性挙動を示す。衝撃波,細胞膜強度,ゲルの粘弾性のデータを集めながら,光穿孔の理論モデルを構築する。異種の細胞を用いることで異なる細胞膜強度のデータが得られる。本理論モデルに対し,レーザ強度,吸収体の濃度,ゲル強度を変えながら実験データと理論の整合性を検証する。
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