研究課題/領域番号 |
23H00247
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分27:化学工学およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
神谷 典穂 九州大学, 工学研究院, 教授 (50302766)
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研究分担者 |
平良 東紀 琉球大学, 農学部, 教授 (60315463)
若林 里衣 九州大学, 工学研究院, 准教授 (60595148)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
47,190千円 (直接経費: 36,300千円、間接経費: 10,890千円)
2024年度: 10,270千円 (直接経費: 7,900千円、間接経費: 2,370千円)
2023年度: 16,510千円 (直接経費: 12,700千円、間接経費: 3,810千円)
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キーワード | 両親媒性タンパク質 / 細胞膜 / 細胞壁 / 架橋酵素 / 翻訳後修飾 / 脂質修飾タンパク / 抗真菌剤 / ラフト / パルミトイル化 |
研究開始時の研究の概要 |
我々の生命活動を担う基本単位である細胞は、脂質と呼ばれる水と油に馴染む性質を有する両親媒性の分子により形成される細胞膜で区画化されている。また、微生物においては、外界との間に主として糖質からなる細胞壁を形成し、その形と機能を維持している。本研究では、細胞膜と細胞壁、それぞれの界面で機能を発揮する人工タンパク質分子を設計し、新しいタイプの薬剤を開発することを最終目標とする。
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研究実績の概要 |
初年度の検討においては、分担研究者の若林里衣准教授の協力の下、脂質部位の構造-機能相関のための人工脂質化タンパク質の多様化とその評価を中心に検討を進めた。緑色蛍光タンパク質をモデルとし、炭素数8から22までの幅広い鎖長の脂肪酸を疎水部として有する人工脂質修飾タンパク質を調製し、これの脂質膜上での動態を、人工脂質二分子膜ならびに生細胞を用いて検証した。その結果、炭素数14以上のアルキル鎖から人工脂質二分子膜へのアンカリング能力は顕在化し、炭素数16から22までのアルキル鎖を有する緑色蛍光タンパク質は、その鎖長に依らず、巨大脂質小胞上のラフト模倣ドメインへ局在することを確認した。さらに、平面脂質二重膜上での拡散挙動の評価から、炭素数16と18の間で側方拡散が著しく抑制されることが明らかとなった。一方、Jurkat細胞を用いた生細胞膜を対象とした検討においては、人工脂質修飾蛍光タンパク質の細胞内剤化挙動が、炭素数18と20を境に大きく変化することが明らかとなった。 人工脂質修飾タンパク質の応用研究については、脂質修飾タンパク質の調製に用いるトランスグルタミナーゼの新たな変異体の取得に成功した。また、分担研究者の琉球大学平良教授の協力の下、植物由来の抗真菌酵素キチナーゼの脂質修飾と抗真菌活性の発現について検討した。特に、アルキル鎖の長さと数が異なる新規人工脂質修飾キチナーゼを調製したところ、炭素数14と16の1本のアルキル鎖を有するキチナーゼドメインがより高い抗真菌活性を示し、これらの脂質修飾が、真菌の細胞壁への浸透を促進する可能性が示唆された。さらに、リポソーム製剤との併用を評価したところ、脂質修飾キチナーゼドメインのアンカリングにより製剤の長期安定性が増すことが明らかとなった。以上より、次年度以降の研究進展に繋がる十分な成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、タンパク質分子への部位特異的な脂質導入を介した両親媒性付与を通して、目的タンパク質の細胞膜界面あるいは細胞壁近傍での機能発現に与える影響の理解と、その成果に基づく社会的価値の追求を目標とする。初年度においては、アルキル鎖の長さと数の観点から、脂質化タンパク質の多様化に成功し、人工脂質二分子膜並びに生細胞膜上での動態について、興味深い成果が得られた。抗真菌活性の発現における脂質部位の構造-機能相関に関する一連の基礎研究においては、特にリポソーム製剤との併用における効果を検証できた。さらに、人工脂質修飾タンパク質の調製の鍵酵素である微生物由来トランスグルタミナーゼについて、新たな組換え酵素の設計と検証に成功した。以上の結果から、初年度の研究については概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、人工脂質修飾タンパク質の細胞内在化と、抗真菌活性の発現メカニズムの解明を中心に研究を進めながら、生体系における脂質化の意義についてより深い理解を試みると共に、新たな応用展開を進める。並行して、人工脂質化タンパク質の調製方法の拡張のための技術基盤を構築する。 まず、動物細胞膜との相互作用の可視化と定量化を深化することで、脂質修飾タンパク質の生体膜上での動的挙動に対する理解を深める。また、薬理活性を発現する薬剤設計に向けて、薬剤封入リポソーム等の脂質型製剤と脂質化タンパク質の複合化を試み、製剤の性能と安定性を評価する。さらに、より高度な機能化に向けて、実用に資する多様なタンパク質ドメインを脂質膜に簡便に提示するための技術基盤を確立し、更なる研究発展のための基礎を固める。次に、モデルタンパク質としてキチン結合ドメインと緑色蛍光タンパク質からなる融合タンパク質を用い、真菌を対象とした評価において、脂質修飾が細胞膜・細胞壁との相互作用に与える影響を検討し、抗真菌活性の発現機構に迫る。その際、分担研究者である平良教授との協働により、異なる真菌細胞壁成分をターゲットとする抗真菌活性酵素を取り上げ、そのタンパク質工学的改変を通した脂質導入と抗真菌活性の評価を実施する。並行して、多様な人工脂質修飾タンパク質調製への適用が可能な、微生物由来トランスグルタミナーゼ変異体の改変を進める。
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