研究課題/領域番号 |
23H00290
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分32:物理化学、機能物性化学およびその関連分野
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
新倉 弘倫 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10500598)
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研究分担者 |
森下 亨 電気通信大学, 量子科学研究センター, 教授 (20313405)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
45,500千円 (直接経費: 35,000千円、間接経費: 10,500千円)
2024年度: 9,490千円 (直接経費: 7,300千円、間接経費: 2,190千円)
2023年度: 15,470千円 (直接経費: 11,900千円、間接経費: 3,570千円)
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キーワード | アト秒物理 / 高次高調波 / 波動関数イメージング / 多電子相関 / 極端紫外光 / アト秒科学 / 光電子の位相 / 時間依存シュレーディンガー方程式 / 時間分解分光 / アト秒レーザー / 極端紫外領域 / 量子制御 |
研究開始時の研究の概要 |
分子の構造や物性、化学反応・機能発現には、電子配置や電子波動関数の位相分布とその変化が関与する。本研究課題では、極端紫外領域のアト秒レーザーパルス列(高次高調波)と、高強度レーザーパルスを組み合わせた分子の量子制御を用いて、分子から発生した光電子の位相と振幅の運動量空間での分布を可視化する方法を開発する。特に、多電子相関や異なる電子配置が相互作用する系に注目し、相関がある場合にどのように光電子の位相分布が影響を受けるのかについて実験・理論の双方から明らかにする。これらにより、さまざまな分子での複素数での電子波動関数の可視化など、分子での多電子アト秒電子波動関数イメージング法を確立する。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、代表者らが構築したアト秒位相分解波動関数イメージング法を、様々な原子の異なるエネルギー状態や気相分子に適用することを目的としている。これまでの代表者の測定では、アト秒レーザーパルス列(高次高調波)と赤外レーザーパルスとを時間的に重ねた状態で測定試料に照射し、放出された光電子の位相を運動量ごとに測定する方法だった。本研究課題では、アト秒パルスが照射されてからの原子や分子のダイナミクスに伴う位相変化を測定することを計画している。そのため、複数のアト秒パルス(ポンプパルス)と赤外パルス(プローブパルス)の時間差を少なくとも10~20アト秒オーダーの精度で保ちながら、それぞれのパルス間隔を前後に200フェムト秒程度まで変化させることのできる光学系を構築し、希ガスに対して光電子運動量分布の時間分解測定を行った。その結果、アト秒パルスを照射後のある時間範囲で、100~200アト秒オーダーの周期(正確な周期は解析中)を持つ光電子の干渉が観測され、重なっていた複数の準位からの寄与を分離して、光電子の運動量ごとの位相差を測定することが可能になった。現在、その結果の解析とモデル化を行っている。また、極端紫外領域のアト秒レーザーパルス列と赤外レーザーパルスによるヘリウム原子のイオン化過程について、1電子近似のもとでの時間依存のシュレーディンガー方程式の直接数値計算を行い、実験結果と比較を行った。光電子運動量分布の極紫外パルスと赤外パルスの遅延時間依存性を調べ、フロケー理論計算と併せて可能な量子経路の探索を行った。また、分子標的に対する実験を踏まえて、直線分子についての時間依存のシュレーディンガー方程式の計算コード開発と高速化を行った。関連する高強度レーザー場中の原子・分子ダイナミクスの研究を行い、得られた結果を学術論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度は、実験ではレーザーの冷却システムの破損や恒温装置の故障など予期せぬ装置系の故障・不調があった。そのため、当初の実験計画の順序を入れ替えて、はじめに時間分解ポンププローブ分光用の光学系の構築とその測定を行った。その結果、10~20アト秒のオーダーでの光電子の位相差の違いが検出できることを確認するなど、構築した光学系が予測どおり機能していることを確認した。また、それにより新たな測定データも取得した。計算も順調に行われている。以上により、おおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下のことを行う予定である。 (1)複数のアト秒レーザーパルスによる高分解能・光電子位相差検出法の開発:昨年度に構築したアト秒光学系による実験結果の解析とモデル化を行う。現在、ある条件化で高次高調波を発生させたところ、時間差をおいて複数のアト秒パルスが発生し、それらの時間間隔を高精度(少なくとも10~20アト秒オーダー)で制御できることがわかった。この発生機構の解明を実験と理論計算の双方から行う。実験では、これらのアト秒パルスの発生する条件を変え、どのような条件でどのようなパルスが発生しているのかを明らかにする。理論では、strong field approximation(SFA)などの高次高調波発生に関わる計算を行い、実験結果と比較する。また、それぞれのアト秒レーザーパルスによって生成した電子波束の干渉を観測したが、その干渉の経路を明らかにする。結果が得られ次第、論文等で発表を行う。 (2)分子への適用:この光学系を用いた測定方法を窒素分子などの分子に適用し、複数のアト秒レーザーパルスと赤外光およびその第2高調波による励起・イオン化過程と電子波束の干渉について同様の測定を行い、光電子の運動量ごとの位相差がそれぞれの時間差によってどのように変化するのかを調べる。 (3)イオン測定用の検出器の設置と測定:本課題では分子の配列を行うことを計画している。光電子の検出によって配列度を確かめることを試みたが、確かな配列の実験的確認は困難だった。そこでまず、比較的検出が容易なイオンの測定により、分子配列と高次高調波によるイオン化過程の検証を行う。新たに真空チャンバーの中にイオン用の二次元検出器を設置し、まずイオンの運動量分布が測定できるかを確かめる。 (4)理論計算では、ヘリウム 以外の原子や分子標的について実験条件に合わせて直接数値計算を行い、分析を進める。
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