研究課題/領域番号 |
23H00331
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分39:生産環境農学およびその関連分野
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
有江 力 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00211706)
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研究分担者 |
浅井 秀太 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 上級研究員 (30723580)
荒添 貴之 東京理科大学, 創域理工学部生命生物科学科, 講師 (40749975)
川部 眞登 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 九州沖縄農業研究センター, 上級研究員 (60462678)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
46,670千円 (直接経費: 35,900千円、間接経費: 10,770千円)
2024年度: 10,530千円 (直接経費: 8,100千円、間接経費: 2,430千円)
2023年度: 12,220千円 (直接経費: 9,400千円、間接経費: 2,820千円)
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キーワード | フザリウム病 / パンデミック / 未来疫学 / 分化 / 病原性関連因子 |
研究開始時の研究の概要 |
植物のフザリウム病は食料生産に質的かつ量的な被害を与え、間接的に人類の生命に影響を及ぼしている。本研究では、フザリウム病の宿主特異性決定・分化メカニズムや、パンデミック要因を解明する。その結果は、未来疫学に基づき、フザリウム菌の新たな分化型・レース出現の予知に展開し、将来的には、フザリウム病の制御手段である抵抗性品種の育種や農薬の未然の開発等につなげる。そのため本研究では、フザリウム病に関わる3つの「問い」を掲げ、これら植物病理学上重要な「問い」に対して、ゲノム解析・比較、ゲノム編集等の先端のアプローチを駆使して取り組む。
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研究実績の概要 |
(1) バナナパナマ病菌等20分化型69のフィールド分離株のゲノム解析を終了、比較ゲノム解析を行なっている。バナナパナマ病菌、ミツバ株枯病菌、ダイコン萎黄病菌、ホウレンソウ萎凋病菌、コマツナ萎黄病菌のベノミル処理によってアクセサリー染色体の欠損株を作出、分化型決定メカニズムの解析を開始した。また、CRISPR/Cas9を用いトマト萎凋病菌のアクセサリー染色体の広域欠損 (20-740 kb) ライブラリーの構築を試み、アクセサリー染色体の約9割をカバーしたことを示した。確立したバナナパナマ病菌やそのレースのLAMP法による特異検出法を活用、沖縄本島、奄美大島および四国(1圃場)から分離された株がレース1、関東(2圃場)および四国(1圃場)から分離された株がレースTR4である可能性が示唆され、rDNA-IGS領域に基づく分子系統が同一であることから、感染苗の移動によって本州や四国でレースTR4の感染が拡大したものと想定した。 (2) トマト萎凋病菌が持つ塩基性ロイシンジッパー (bZIP) 型転写因子 (55遺伝子) のうち18遺伝子の破壊株を作出した。このうち5遺伝子が病原性に関与することが示唆され、菌叢や生育速度に変化がみられる破壊株も存在した。プラントアクチベーターX剤を茎葉散布したバナナに非病原性フザリウム菌W5株を灌注処理し、バナナが萎凋病に感染したかのように速やかに枯死することを再現する予定であったが再現できていない。バナナ以外の植物も用いて検定中である。一方、非病原性フザリウム菌処理時の植物体の遺伝子発現解析を開始した。 (3) 継続的に採取している過去に萎凋病発生履歴のあるトマト連作圃場の土壌にレース抵抗性の異なるトマト品種を栽培、レース分化の加速化試験を開始した。また、鹿児島県のサツマイモ圃場から分離したつる割病菌について、ベノミル高度耐性菌の存在を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に示したように、概ね研究計画に従い研究を実施、一部は研究計画より大幅に研究が進んだため、「おおむね順調に進展している」と判断した。特に、ゲノム解析、ベノミル処理によるアクセサリー染色体欠損株の作出、CRISPR/Cas9によるアクセサリー染色体領域の広域欠損ライブラリーの構築が予定以上に進んだ。分化型、レース識別用特異LAMPプライマーセットの構築を一部の分化型について完了、実装を予定している。予定通りに進まなかった点は、プラントアクチベーターX剤を茎葉散布処理したバナナに非病原性フザリウム菌W5株を灌注接種し、バナナが萎凋病に感染したかのように速やかに枯死することを再現する予定であったが再現できていない点であり、現在バナナ以外の植物も用いて再度検定中である。
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今後の研究の推進方策 |
特に大きな研究計画の変更や問題点はない。 2024年度は以下のように研究を推進する予定である。 (1)フザリウム菌の分化型やレースを決定するアクセサリー染色体の構造や機能について、多数(4年間で100株を目標)のフィールド分離株のゲノム解析・比較、ゲノム編集・遺伝子破壊などの手法を駆使して解明する。2024年度は、2023年度に解析した菌株に加え、イチゴ萎黄病菌等約10菌株のゲノム比較、さらにベノミル処理等によってアクセサリー染色体の欠損株、相補株を作出、分化型決定メカニズムの解析を推進する。一方、フザリウム菌の種苗による一次伝染の重要性が注目される。そこで、2024年度は、LAMP法等による特異検出を行い、フザリウム菌の種苗伝染の確率の解析を行う。 (2)フザリウム菌のアクセサリ ー染色体上に座乗する遺伝子の宿主との相互作用を解析することで、宿主特異性に係る分子機構を解明する。2024年度は、プラントアクチベーターX剤を茎葉散布した植物根部に非病原性フザリウム菌W5株を灌注処理することで、バナナが萎凋病に感染したかのように速やかに枯死することを引き続き確認するとともに、植物体の遺伝子発現解析を実施し、フザリウム病の発病に至る分子機構の解明に繋げる。 (3)トマト連作圃場土壌に、トマト複数品種の年複数回栽培、レース分化の加速化試験を継続する。一方、トマト萎凋病菌レース3に変異誘発処理(UV処理、EMS等の化学処理等)を行い、レース分化の加速化を図る。得られた新レース株のゲノムを解析、野生株との比較によって、アクセサリー染色体やその上の遺伝子の変異頻度や転移頻度の解析を開始する。
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