研究課題/領域番号 |
23H00369
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分43:分子レベルから細胞レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉村 成弘 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (90346106)
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研究分担者 |
小迫 英尊 徳島大学, 先端酵素学研究所, 教授 (10291171)
坂上 貴洋 青山学院大学, 理工学部, 教授 (30512959)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
46,800千円 (直接経費: 36,000千円、間接経費: 10,800千円)
2024年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
2023年度: 12,740千円 (直接経費: 9,800千円、間接経費: 2,940千円)
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キーワード | 液ー液相分離 / タンパク質翻訳後修飾 / 細胞周期制御 / 核小体 / 液-液相分離 / 非膜オルガネラ / 翻訳後修飾 / リン酸化 / 細胞内非膜オルガネラ / ポリマー物理 |
研究開始時の研究の概要 |
リン酸化やメチル化に代表される「タンパク質翻訳後修飾」は、タンパク質の機能・動態制御や細胞内シグナル伝達で重要な役割を果たしている。近年、リン酸化は天然変性領域に多く生じること、天然変性領域は細胞内で液-液相分離を起こしやすいこと、が着目され、リン酸化が液-液相分離を制御する例が報告されつつある。しかしそのメカニズムや細胞内での作用機序は全く不明である。本研究課題では「リン酸化等の翻訳後修飾はいかにして細胞内液-液相分離を制御するか」を学術的な問いとして設定し、細胞内非膜オルガネラの形成・崩壊が、翻訳後修飾により制御される基盤原理を解明することを目的とする。
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研究実績の概要 |
研究項目Ⅰ ストレス応答で重要な役割を果たしているストレス顆粒の形成と、その主要成分のG3BP1のメチル化との関係を明らかにした。GFP融合G3BP1をHeLa細胞に発現させ、ストレス処理した後に抽出液を調製し、抗GFPナノボディによる免疫沈降を行い、LC-MS/MS解析した。その結果、C末端領域のアルギニン残基のメチル化がストレスによって減少することが分かった。また、ストレス応答で機能する非膜オルガネラp-bodyに関して、近以ビオチンラベル法を用いて、抗レトロウイルス宿主因子ZCCHC3がウイルスRNAをp-bodyに封じ込めることを明らかにした。 細胞周期の進行に伴うリン酸化の比較定量解析では、野生型およびKi-67を欠失したHCT116細胞に対し、ノコダゾール処理によってM期で停止させた細胞と、停止を解除した細胞の4種類を用意し、トリプシン消化、安定同位体を含む16種類のTMTag試薬での標識、リン酸化ペプチドの精製などをおこなった後にLC-MS/MS解析した。その結果、48551種類のリン酸化ペプチドを定量することに成功し、分裂期進行にともなうリン酸化量変化の網羅的定量データを得た。 研究項目Ⅱ 電荷ブロック効果による液-液相分離の物理的メカニズム解明に向け、アミノ酸残基を荷電モノマーと見立てたポリペプチド鎖粗視化モデルの構築に着手した。電荷ブロック特性の異なる複数のポリペプチド鎖溶液について、濃度、熱エネルギーに対する静電相互作用の相対的強度を系統的に変化させ、液-液相分離の相図を作成した。その結果、電荷ブロック性と液-液相分離の起こりやすさとの間に、強い相関を見出した。また、ポリペプチド鎖の統計的な形態についての解析を行い、液-液相分離の起こりやすさが、希薄溶液におけるポリペプチド鎖の凝縮傾向とも関連していることを見出した。これらの結果について総説論文を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目Ⅰでは、免疫沈降したG3BP1の消化物に対し、ショットガン法とPparallel Reaction Monitoring法による質量分析を行うことにより、メチル化部位を同定し、さらにストレスによる変化を定量することができた。またTMT法を用いた大規模比較定量リン酸化プロテオミクスにより、分裂期停止中と解除後における網羅的なリン酸化の変動を検出することに成功したため、本研究は順調に進展していると判断した。 また、研究項目Ⅱの粗視化モデルの構築とシミュレーションの実行、解析についても、おおよそ予定通りに進展しており、得られた結果の考察や研究代表者との議論を通して、電荷ブロック効果による液-液相分離という現象についての理論的な理解を深めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
G3BP1はストレスを受けるとC末端の天然変性領域のアルギニン残基が脱メチル化されることによってストレス顆粒の形成を促進する可能性がある。本研究によってメチル化修飾が変化するアルギニン残基が複数同定されたため、変異体を用いた解析を進める予定である。またKi-67の多数のリン酸化部位を同定・定量することができたため、リン酸化による電荷ブロック効果への影響を検討する。さらに、分裂期進行に伴うリン酸化量変化の網羅的比較定量情報から、Ki-67の欠失に伴って変化する他のリン酸化タンパク質を検索し、Ki-67との機能的関連を解析する予定である。 また、研究項目Ⅱでは、これまで特定の配列のポリペプチド鎖のみからなる溶液を対象としてきたが、今後は、複数種のポリペプチド鎖の混合溶液における液-液相分離の解析へと展開する。ここでは、それぞれのポリペプチド鎖間のアフィニティにより、多相共存などの多様な相分離挙動が予測され、新たな解析手法が必要となる。また、リン酸化などの翻訳後修飾による相挙動の変化のモデリングについても着手していく。
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