研究課題/領域番号 |
23H00403
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分49:病理病態学、感染・免疫学およびその関連分野
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山崎 晶 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (40312946)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
47,190千円 (直接経費: 36,300千円、間接経費: 10,890千円)
2024年度: 14,560千円 (直接経費: 11,200千円、間接経費: 3,360千円)
2023年度: 18,070千円 (直接経費: 13,900千円、間接経費: 4,170千円)
|
キーワード | T細胞抗原受容体 / 抗原 / 脂質 / 代謝物 / 免疫学 / 自己抗原 / 自然免疫受容体 / 自然免疫型T細胞 / T細胞受容体 / MAIT細胞 / MR1 |
研究開始時の研究の概要 |
自然免疫と獲得免疫は異物の排除を担う免疫応答の両輪である。両者を橋渡しする細胞集団として、中間的な役割を担うunconventional(自然免疫型)T細胞が存在する。病原体特有の非タンパク性抗原(脂質や代謝物)を偏ったT細胞受容体で認識し、迅速に応答する戦略は自然免疫におけるパターン認識受容体に近い。ところが、conventional(通常)T細胞と異なり、自然免疫型T細胞の分化・維持機構の理解は遅れており、selecting(選択)リガンドの実体も不明である。本研究では、自然免疫型T細胞の分化・局在・維持を司る分子機構と炎症性疾患との関わりを明らかにすることを目的とする。
|
研究実績の概要 |
自然免疫と獲得免疫は異物の排除を担う免疫応答の両輪である。両者を橋渡しする細胞集団として、中間的な役割を担う自然免疫型T細胞が存在する。病原体特有の非タンパク性抗原(脂質や代謝物)を偏ったT細胞受容体で認識し、迅速に応答する戦略は自然免疫におけるパターン認識受容体に近い。ところが、古典的T細胞と異なり、自然免疫型T細胞の分化・維持機構の理解は遅れている。自然免疫型T細胞サブセットのひとつであるMucosal-associated invariant T (MAIT) 細胞は、病原菌に特有のリボフラビン代謝物を抗原として認識し、感染防御に寄与することが知られているが、自己由来の抗原は不明であった。自己抗原が存在すれば、分化のみならず、末梢における維持や組織常在性を規定する可能性も想定される。 我々は最近、独自の抗原探索プラットフォームを用いて、MAIT細胞の初めての自己抗原として硫酸化胆汁酸(Cholic acid 7-sulfate, CA7S)を同定した。CA7Sは、胆汁酸化合物コール酸(Cholic acid, CA)の硫酸基付加によって生合成される。胆汁酸の硫酸化はこれまで、その両親媒性膜毒性を中和して排泄を促す、いわば「廃棄物処理」の過程と考えられており、積極的な役割は想定されていなかった。捨てられるべき対象を免疫系に再利用する効率的な生体システムの存在も示唆される。本研究では、新たな抗原認識分子基盤の観点から、MAIT 細胞の分化・維持・局在・機能分化、並びに疾患との関わりを明らかにすることを目的とした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CA7Sは、肝臓において宿主酵素Sulfotransferase2a (Sult2a)によって生合成される。Sult2aは、マウスにおいては8つの類似するサブタイプがクラスターを形成するため、これらを全て欠損するマウスをCRISPR/Cas9システムを用いて樹立した。このマウスは見かけ正常であったが、胆汁酸化合物の中でもCA7Sのみが減少していることを確認した。そこで胸腺のMAIT細胞を解析したところ、その数は顕著に減少していた。さらに、分化段階やMAIT1/17サブセット分化もまた障害されていたことから、本自己抗原がMAIT細胞の胸腺分化に重要なTCRシグナルを与えていることが示唆された。 CA7Sは、ヒトMAIT細胞にも認識される。ヒト末梢血を細菌抗原とCA7Sで刺激しその反応性を検討した。CA7Sは、細菌抗原で誘導されるMAIT細胞の増殖を誘導しなかったものの、生存を延長させる傾向が認められた。実際、single cell RNA-sequencing解析により、CA7Sに応答したMAIT細胞が、細菌抗原刺激とは全く異なる遺伝子発現プロファイルを示すことが明らかとなった。CA7Sは、炎症性応答を誘導する細菌抗原とは対照的に、恒常性維持や損傷治癒応答に関わる遺伝子を誘導していた。これらの結果により、自己抗原CA7Sは、細菌抗原とは質的に異なるシグナルを誘導し、胸腺分化のみならず、末梢での恒常性維持や組織修復にも機能することがわかってきた。
|
今後の研究の推進方策 |
ヒトにおいてMAIT細胞が最も豊富な臓器は肝臓である。とりわけ胆管に隣接する類洞と呼ばれる毛細血管内に豊富に存在する。胆汁酸化合物CA7Sは胆管内に高濃度で存在することから、MAIT細胞の局在や組織内での維持を司っている可能性が考えられる。肝臓MAIT細胞は循環血液中よりもT細胞活性化マーカーの発現が高いことが報告されており、肝臓MAIT細胞に対するCA7Sの影響が想定される。実際、Sult2a欠損マウスの肝臓MAIT細胞において、MAIT細胞のアイデンティティを特徴づける遺伝子発現が抑制されていた。末梢MAIT細胞の維持生存・機能獲得における自己抗原の影響をsingle cell TCR-RNA-sequencing及びマウス遺伝学を用いて検討する。 臨床的には、自己免疫疾患への寄与が示唆される。とりわけ胆汁鬱滞を伴う原因不明の自己免疫疾患である原発性胆汁性胆管炎(PBC)及び原発性硬化性胆管炎(PSC)において、MAIT細胞数の増加や活性化異常が報告されている。これらの疾患において硫酸化胆汁酸もまた増加することから、MAIT細胞による異常な抗原認識が疾患の発症・増悪に寄与していることが想定される。実際、これらの患者胆汁そのものがMAIT細胞を活性化することも近年報告された。胆汁酸抗原の病態への寄与とそのメカニズムの解明を目的として、患者検体を用いてMAIT 細胞活性化画分の特定、活性画分の定量及び臨床症状との関連を明らかにする。現在国内外の医療機関と連携し、臨床サンプルを用いた検証を進めている。
|